151 遺跡で迎えた14歳の夏
ケニスが円い小さな懐中鏡を貰ってから、3回冬が過ぎ、夏が来た。今も、シャキアの仕事場があるオアシスの遺跡に留まっている。精霊剣の稽古をしながら、カーラ、オルデン、ハッサン、バンサイと共に住んでいた。
バンサイの使う絵の具や紙は、オルデンの魔法で複製できた。砂漠の顔料も試しながら、バンサイは旅をやめて楽しく暮らしている。遺跡の鍵は壊れたままだが、特に困ったこともなく、気がつけば3年半が過ぎていた。
シャキアはお祝い用の華やかなカンテラがおおいに当たり、工房と町を行き来する生活に変わっている。
「おかえり、シャキア」
「あ、ありがとう、デン」
気やすい言葉遣いになったシャキアは、オルデンが出す手に仕入れてきた金属の塊を渡す。木箱に溢れるほど、加工前の地金が入っている。商売は上手くいっているようだ。
「しばらく工房か?」
「ええ」
「久しぶりに逆さまの宮殿にでも行くか」
「いいわね」
オルデンはシャキアの柔らかな笑みを見ると、ふと思いついて付け足した。
「たまには2人でどうだ?」
「あら、そうね、そうしましょうか」
シャキアも何でもないように答えた。オルデンの眼が弓なりになって喜びを表す。シャキアも嬉しそうに目元を赤らめた。2人とも最初は、皆で行くつもりだったのだ。オルデンのなんとなく言い出した誘いが、ごく自然にオルデンとシャキアの距離を近くしたのであった。
それから、ふたりは雑談をしながら炉の近くまで金属を運ぶ。
ケニスは14才になった。
「あとはひとりでなんとかなんじゃねぇ?」
ある日の夕方、オアシスの遺跡でハッサンが言った。精霊の宿る刀や剣の扱いは、精神力がものを言う。感情に振り回されてしまうと、使い手は力を大量に吸い取られてしまうのだ。
「精霊剣は力のやり取りさえ身につけちまえば、動きはは剣が教えてくれるからよ」
ケニスは精霊の血を引く子供であるが、幸運剣ヴォーラを継いだ時はまだ5歳であった。初めて実践で抜いたのは10歳である。ヴォーラの剣身には、「幸運を力に」と刻まれている。持ち主の幸運を使って相手の幸運を打ち砕く武器なのだ。幼い者には、力の調整がとても難しい。
「本当?ハッサン。俺、出来そう?」
「ああ、ヴォーラの力を充分コントロールできるようになったと思うぜ」
その日の稽古が終わり、ふたりは水浴びをしながら話していた。カワナミを呼び出し、遺跡の片隅で体を洗っている。もう幼子ではないので、崩れ残った壁の影を使う。
カーラは離れたところにいる。精霊とはいえ、今は14歳の女の子である。ケニスと一緒に成長しているのだ。裸の水浴びを見せるわけにはいかない。ケニスも気を使うようになっていた。
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