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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第四章 イーリスの子供たち
151/311

151 遺跡で迎えた14歳の夏

 ケニスが円い小さな懐中鏡を貰ってから、3回冬が過ぎ、夏が来た。今も、シャキアの仕事場があるオアシスの遺跡に留まっている。精霊剣の稽古をしながら、カーラ、オルデン、ハッサン、バンサイと共に住んでいた。


 バンサイの使う絵の具や紙は、オルデンの魔法で複製できた。砂漠の顔料も試しながら、バンサイは旅をやめて楽しく暮らしている。遺跡の鍵は壊れたままだが、特に困ったこともなく、気がつけば3年半が過ぎていた。



 シャキアはお祝い用の華やかなカンテラがおおいに当たり、工房と町を行き来する生活に変わっている。


「おかえり、シャキア」

「あ、ありがとう、デン」


 気やすい言葉遣いになったシャキアは、オルデンが出す手に仕入れてきた金属の塊を渡す。木箱に溢れるほど、加工前の地金(じがね)が入っている。商売は上手くいっているようだ。


「しばらく工房か?」

「ええ」

「久しぶりに逆さまの宮殿にでも行くか」

「いいわね」


 オルデンはシャキアの柔らかな笑みを見ると、ふと思いついて付け足した。


「たまには2人でどうだ?」

「あら、そうね、そうしましょうか」


 シャキアも何でもないように答えた。オルデンの眼が弓なりになって喜びを表す。シャキアも嬉しそうに目元を赤らめた。2人とも最初は、皆で行くつもりだったのだ。オルデンのなんとなく言い出した誘いが、ごく自然にオルデンとシャキアの距離を近くしたのであった。


 それから、ふたりは雑談をしながら炉の近くまで金属を運ぶ。



 ケニスは14才になった。


「あとはひとりでなんとかなんじゃねぇ?」


 ある日の夕方、オアシスの遺跡でハッサンが言った。精霊の宿る刀や剣の扱いは、精神力がものを言う。感情に振り回されてしまうと、使い手は力を大量に吸い取られてしまうのだ。


「精霊剣は力のやり取りさえ身につけちまえば、動きはは剣が教えてくれるからよ」


 ケニスは精霊の血を引く子供であるが、幸運剣ヴォーラを継いだ時はまだ5歳であった。初めて実践で抜いたのは10歳である。ヴォーラの剣身には、「幸運を力に」と刻まれている。持ち主の幸運を使って相手の幸運を打ち砕く武器なのだ。幼い者には、力の調整がとても難しい。


「本当?ハッサン。俺、出来そう?」

「ああ、ヴォーラの力を充分コントロールできるようになったと思うぜ」



 その日の稽古が終わり、ふたりは水浴びをしながら話していた。カワナミを呼び出し、遺跡の片隅で体を洗っている。もう幼子ではないので、崩れ残った壁の影を使う。


 カーラは離れたところにいる。精霊とはいえ、今は14歳の女の子である。ケニスと一緒に成長しているのだ。裸の水浴びを見せるわけにはいかない。ケニスも気を使うようになっていた。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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