149 宝物殿の地下
湾曲した壁には、天井に届く程の槍が掛けてあった。銀色に光る大槍は、穂先の近くに鉤手がついている。長い柄には複雑な呪文が彫りつけてあり、滑り止めの魔法がかけられていた。
槍から数歩離れて、三段ほどある棚が見える。棚板は分厚く、灰色の石で造られていた。
「こりゃ、幻影石じゃねぇ?」
ハッサンが背中を曲げてまじまじと観察する。
「なんだ、幻影石って」
「へぇ、オルデンでも知らねぇことあんだな」
「知らねぇことのほうが多いぜ」
オルデンが言うと、肩から枯草の精霊が口を出す。
「幻影半島には来たばっかりだもんな!」
オルデンは頷くと、ハッサンと話を続ける。
「精霊たちから多少の噂話は聞いたけどよ。幻影半島のこたぁ、殆ど解んねぇな。その棚、何かすげぇもんで出来てんのか」
「幻影石はな、採掘が難しいんだよ。見えねぇから」
「見えねぇの?」
「砂ん中にある時にはぜんぜん見えねぇし、加工しちまえば、見てのとおりだ」
その棚には何も載っていないように見える。魔法使いたちには見えるのだが、バンサイには見えない。ハッサンは棚に手を触れた。
「えっ、大丈夫ですかい?手が消えた?」
「加工した幻影石に触れてると見えなくなんだよ」
ハッサンはニヤッと笑って棚から手を離す。
「それじゃ、その上にはお宝があんのか」
「そうだぜ、バン」
オルデンはバンサイに手をかざす。
「ほれ、こうすれば見えるだろ」
「あ、本当だ。ありがとう」
「これみんな、何に使う物?」
ケニスが真ん中にいる龍に聞いた。龍は曲がった爪でひとつひとつ指しながら簡単な説明をしてくれた。
棚の1番上には喋る翡翠の鳥と尽きることなく酒を注げる銀の酒壺、真ん中の段には何でも取り出せる黄金の小箱と水の上を歩ける象牙の腕輪、下の段には風に乗って飛べる絹の靴。
「もうひとつあるぞ」
龍はするすると身をほどくと、天井付近で身を翻し頭を下に向けた。龍がいた場所には、地下へと導く階段があった。
「下りてみるか」
オルデンがケニスに聞いた。
「うん!」
ケニスが元気よく答えると、オルデンが先に立って階段を下りる。ケニスとカーラは手を繋いで、並んだまま下りてゆく。幅広の階段は、大人でも2人並んで下りられそうだ。シャキアが続き、バンサイ、ハッサン、砂のトカゲの順番で一同は地下へと向かう。
10段もない階段の下には、四角い部屋が広がっていた。円筒形の部分よりも狭いようだ。階段は部屋の真ん中にある。正面には真っ黒な宝石で造られた樹が据えられている。
「デロンだわ!」
黒い樹に抱かれるようにして、大きな楕円形の鏡があった。カーラは嬉しそうに叫んだが、ケニスが驚いた顔をする。
「デロン?どこ?」
ケニスには、カーラが観ているデロンの姿が分からない。きょろきょろと周囲を見回すケニスに、カーラがお姉さんぶって教える。
「ケニーも遺跡で観たから、デロンがわかるでしょ?ほら、鏡に映ってるじゃない」
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