148 宝物殿と魔法
鍵穴も引き手もない細長い扉が、真ん中から割れて左右に開いてゆく。ギーギーという軋みが微かに聞こえる。
「魔法で守られているのに、蝶番が軋むなんて」
シャキアが不思議そうにオルデンを見上げた。
「魔法をかける時には、もう古くなってたんだろ」
オルデンはこともなげに答えを見つけた。
「新品に戻す魔法はなかったんですね」
「修理してから魔法をかけることも思いつかなかったんだな」
「ふふっ」
「抜けてんな」
「龍と戦って仲良くなるような王様なのにね」
シャキアとオルデンが笑い合う。カーラとケニスは、手を繋いで宝物殿の中へと入った。
「俺たちも入ろうぜ」
ハッサンが大人たちに言い、一同はぞろぞろと宝物殿に入って行った。扉は開いたままである。宝物殿の中からは冷たい空気が流れ出し、中庭からは花の香りが室内へと入って来る。
宝物殿に収められた品々は、棚や台の上に塵ひとつなく飾られている。円筒形の建物の中央には、青緑色の細長い龍がとぐろを巻いていた。蛇のように巻いた身体の尻尾側と頭の近くに、それぞれ2本の脚が出ている。それがなんとも間抜けに見えて、誰ひとり怖がる者はいなかった。
「涼しいけど寒くないね」
ケニスが言った。
「そうだな。ちょうどいい」
オルデンが応じる。バンサイは筆を取るのを躊躇しているようだ。
「バンさん、魔法で墨が飛ばないように出来ますよ?」
シャキアが絵を描く人の心情を察知して提案する。
「そいつぁありがてぇ」
バンサイはパッと顔を輝かせる。シャキアはバンサイの道具に簡単な魔法をかけて、辺りを汚すことがないようにした。ここは宝物殿である。宝の主が去って久しいとはいえ、万が一粗相があってはたいへんだ。
「中の宝物にはいろんな護りの魔法がついてるから、だいたいは気にしなくて良いぜ」
オルデンが室内の魔法を探りながら、バンサイに声をかける。
「あら、余計なことしてしまいましたか?」
シャキアが出しゃばったように感じて恥じる。
「そんなことねぇよ、シャキア」
オルデンが慌てて否定した。
「思ってもみねぇ事故はあるもんだぜ。用心に越したこたぁねぇ」
「ありがとうございます」
「礼なんか言うなよ。俺、変なこと言っちまって」
「変じゃありませんよ」
ふたりは、いつの間にかバンサイそっちのけで互いを持ち上げはじめた。当のバンサイは、もうスケッチを初めて集中しているので、周りの音は聞こえていないようだ。カーラとケニスは宝に夢中である。ハッサンと砂のトカゲが顔を見合わせてニヤニヤした。オルデンの肩にいる枯草の精霊は、興味なさそうに手足をひらひら揺らしている。カワナミは姿を消していた。
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