147 水龍の試し
ケニスは、気を取り直して自己紹介をした。
「こんにちは。俺はケニーだよ」
「カーラよ。よろしくね」
カーラはそっぽを向きながらも、ようやく挨拶をした。
「俺はオルデン。俺たち3人は、精霊大陸から来たんだ」
「俺はハッサン。こっちは遠い国から来たバン」
「私はシャキアです。オアシスの遺跡でカンテラを作ってます」
「俺たち、オアシスの精霊に連れてきて貰ったんだ」
大人たちが挨拶を済ませ、ケニスが説明をした。
龍は全身を震わせた。鱗がシャラシャラと音を立てる。建物を取り囲んでいた水の壁は、中庭の花々を映して揺れた。花の形は溶け合って、鮮やかな色が混ざり合う。
「オアシスの鳥が連れてきたんなら、まあ、宝を見せてやらんでもないが」
厳かな声が宝物殿の屋根から降ってくる。同時に、水が針となって降り注ぐ。
「えっ、何だよ!」
ハッサンが間抜け面になりながらサダを抜く。風が水の針の軌道を変えた。すると今度は水の礫が飛んでくる。水なのに当たると硬い音がした。
「いてっ」
バンサイが思わず目をつぶる。
「何すんのよ!」
「挨拶したじゃないか!」
「私たちは何もしてませんよ?」
子供たちが抗議をすれば、シャキアも珍しく目を吊り上げる。
「何がしたいんだ。宝を見せてくれるんじゃねぇのかよ」
オルデンが水龍に詰問する。
「宝物殿の中は魔法に満ちている」
「ほう、そんで?」
「外から来た魔法に触れたら、何か変化が起こるかもしれない」
「ん?暴走とかか?」
「そうだな」
「俺たちを中に入れたくないなら、口で言えよ」
オルデンが苦々しい声を出す。
「いや、自分で対処が出来るか試したのだ」
「失礼ね」
「試さなくても分かってくれたらいいだろ」
水龍の言葉に、カーラとケニスが文句を言った。水龍は細長い顔を上下に分ける、耳まで裂けた大口を開ける。ギザギザの牙は金色に光り、縦長の瞳孔は、ぎょろりとした銀色の瞳の中で細まった。
「怖くないわよ!」
カーラが叫ぶ。
「笑ってんじゃね?」
砂のトカゲが言った。
オルデンは呆れたように目を細め、穏やかな声で龍に話しかけた。
「なあ、もう入ってもいいか?」
水龍はしばらく無言で瞬きをしていたが、やがて口を閉じ、スルスルと建物を降りて液体に戻る。そして、扉の中へと引っ込んでしまった。
「え、ちょっと!」
カーラが腹を立てて、虹色の火の粉を飛ばす。ケニスはカーラの手を握って注意をひいた。
「みて、カーラ。開くよ」
「何よ、もう!開けるって言ったらいいでしょ!」
観音開きのモザイク扉がギーッと音を立てて外側に開いてゆく。どうやらこの宮殿では、扉が外開きと決まっているようだ。
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