146 宝物殿の中にあるもの
扉を開けることに渋るサダに、カーラが苛立った。
「開けてよ。嫌ならサダだけ入らなければいいでしょ」
カーラは、扉を開けてもらって、サダは宝物殿の外に残して行けばよいと思ったのだ。
「初めて来た場所で、先祖伝来の刀をそこら辺に置いとくわけにゃあいかねぇよ」
ハッサンが困り顔でカーラに言った。サダも激しく明滅して不満を訴える。
「とにかく開けてよ」
「カーラが開けられるんじゃなかったのかよ?」
「うるさいわね、ハッサン」
カーラは自分で言い出しておいて、忘れてしまっていたようだ。
「カーラ、ダメだよ?人間は謝るんだ。デンに習ったろ?」
「なによ、ケニー。いいじゃないのよ、フリしてるだけなんだから。あたしは精霊だわ」
「謝って貰うほどのことじゃねぇよ」
小競り合いをするカーラとケニーに、ハッサンが苦笑いで言った。
「それより、扉は開くのかよ?」
「今あけるわよ」
カーラはプンプンしながら、ランタンの虹色を青白モザイクの扉に投げかけた。
シャキアが息を呑む。バンサイは筆を止めて扉に見入る。
「水龍、開けてちょうだい」
カーラがぞんざいな様子で、扉の向こうへと要求する。宝物殿は、一瞬水で包まれた。振動する水の膜が宝物殿の姿を隠す。
「意地悪ね」
カーラが癇癪を起こして火花を飛ばした。宝物殿を取り巻く水は、怒りを孕んで波打った。
「えーっ、ちょっと待ってよ。俺たち、無理に入らなくてもいいんだよ」
「ダメよ、ケニー!どんなやつなのか、見てやるんだから!」
「カーラ、落ち着いて」
「フン、オアシスの主だからって、威張らないでよね!あたしだって、ノルデネリエの導き手なんだから!」
宝物殿から、水が津波のように襲ってきた。
「カーラやめろって!水龍も落ち着け」
オルデンがカーラと扉の間に飛び込む。宝物殿は水の壁に囲まれて再び姿を現した。そして、鍵穴のない扉の合わせ目から、青緑色の液体が溢れだした。
液体は水で包まれた建物に巻きつきながら、ぐるぐると登ってゆく。手足のようなものが生え、金色の鉤爪が伸びる。先端が屋根の上から弓なりになってゴツゴツした顔を作った。頭の上には三角形の小さな耳と、木の枝に似た瑪瑙にも見える角が生えていた。手足のある巨大な蛇にも似た全身には、青緑色の鱗が見える。
「精霊じゃないね」
「アハハ!枯草ったら、何言ってんの?」
「オアシスの主、宝を見せてくれよ」
一行についてきた精霊たちがてんでに言いたいことを口にする。水龍は調子が狂って目を剥いた。ここの精霊たちは人間寄りなので、好き勝手に話すよそものの精霊にたじろいだのだ。
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