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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第三章 幻影半島
146/311

146 宝物殿の中にあるもの

 扉を開けることに渋るサダに、カーラが苛立った。


「開けてよ。嫌ならサダだけ入らなければいいでしょ」


 カーラは、扉を開けてもらって、サダは宝物殿の外に残して行けばよいと思ったのだ。


「初めて来た場所で、先祖伝来の刀をそこら辺に置いとくわけにゃあいかねぇよ」


 ハッサンが困り顔でカーラに言った。サダも激しく明滅して不満を訴える。


「とにかく開けてよ」

「カーラが開けられるんじゃなかったのかよ?」

「うるさいわね、ハッサン」


 カーラは自分で言い出しておいて、忘れてしまっていたようだ。


「カーラ、ダメだよ?人間は謝るんだ。デンに習ったろ?」

「なによ、ケニー。いいじゃないのよ、フリしてるだけなんだから。あたしは精霊だわ」

「謝って貰うほどのことじゃねぇよ」


 小競り合いをするカーラとケニーに、ハッサンが苦笑いで言った。


「それより、扉は開くのかよ?」

「今あけるわよ」


 カーラはプンプンしながら、ランタンの虹色を青白モザイクの扉に投げかけた。



 シャキアが息を呑む。バンサイは筆を止めて扉に見入る。


「水龍、開けてちょうだい」


 カーラがぞんざいな様子で、扉の向こうへと要求する。宝物殿は、一瞬水で包まれた。振動する水の膜が宝物殿の姿を隠す。


「意地悪ね」


 カーラが癇癪を起こして火花を飛ばした。宝物殿を取り巻く水は、怒りを孕んで波打った。


「えーっ、ちょっと待ってよ。俺たち、無理に入らなくてもいいんだよ」

「ダメよ、ケニー!どんなやつなのか、見てやるんだから!」

「カーラ、落ち着いて」

「フン、オアシスの主だからって、威張らないでよね!あたしだって、ノルデネリエの導き手なんだから!」


 宝物殿から、水が津波のように襲ってきた。



「カーラやめろって!水龍も落ち着け」


 オルデンがカーラと扉の間に飛び込む。宝物殿は水の壁に囲まれて再び姿を現した。そして、鍵穴のない扉の合わせ目から、青緑色の液体が溢れだした。


 液体は水で包まれた建物に巻きつきながら、ぐるぐると登ってゆく。手足のようなものが生え、金色の鉤爪が伸びる。先端が屋根の上から弓なりになってゴツゴツした顔を作った。頭の上には三角形の小さな耳と、木の枝に似た瑪瑙にも見える角が生えていた。手足のある巨大な蛇にも似た全身には、青緑色の鱗が見える。


「精霊じゃないね」

「アハハ!枯草ったら、何言ってんの?」

「オアシスの主、宝を見せてくれよ」


 一行についてきた精霊たちがてんでに言いたいことを口にする。水龍は調子が狂って目を剥いた。ここの精霊たちは人間寄りなので、好き勝手に話すよそものの精霊にたじろいだのだ。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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