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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第三章 幻影半島
145/311

145 サダと水龍

 乗り気ではないサダの様子に、ケニスは気遣いをみせた。


「サダ、水の龍と仲が悪いの?」

「ここの王様がオアシスの主っていう水の龍と喧嘩した時、サダを使ったみてぇだぜ」


 ハッサンがサダから受け取ったイメージを言葉にした。


「王様の宮殿はオアシスの水辺に建っていて、欲しがったオアシスの(ぬし)が水に映った影ん中へ宮殿を引き摺り込んじまったんだと」

「えっ」


 ケニスが絶句する。


「怒った王様と大げんかになって、けど最後は仲良くなったんだ」

「ふうん」


 カーラは興味が無さそうだ。



「それで、宮殿は水の中で逆さまの影に呑まれたまんま残って、龍は宝を護る役目を引き受けたのさ」

「宝の中にサダも置かれたの?」

「そうだ、ケニー。王様はサダを宝物として宝物殿にしまったんだぜ」

「じゃあどうして、今はハッサンが持ってるの?」


 同じ疑問を抱いた皆の目が、一斉にハッサンへと集まった。


「大昔、デロンがここを訪ねて記念に貰い受けたそうだ」

「デロンが?曲刀を使えたの?」


 ケニスは驚いて声を上げる。


「いや。なんだか気が合ったんだとよ」

「へぇぇ」

「その後は、デロンの世話んなった隊商の護衛に渡されて、護衛はその子供に引き継がせたんだ」

「あっ、もしかして?」


 ケニスが察して伸び上がる。


「そうさ。それが俺の先祖だってよ」

「やっぱり!」


 逆さまな宮殿の王と家来たちがいつしか死に絶え、ひとり宝を守っていた水龍の元へ、ある日デロンが訪れた。オアシスの精霊が気まぐれに連れてきたデロンは、特別な能力を持つ職人だった。龍は密かに、デロンがこの宮殿を継いでくれないかと期待した。


「デロンは王になってくれなかっただけじゃなくて、サダだけ連れて行っちまったからな」


 ハッサンは苦笑いで、サダの思い出語りを皆に告げる。


「サダは、裏切り者みてぇな感じで気まずいんだよ」

「ここの精霊は、みんな変わってんのね」


 精霊は人間とは違う。徳も名誉もない存在だ。自由気ままに生きている。だが、かつてここに居たサダも含めて、オアシスの宮殿では精霊たちが人間臭い。


「オアシスの王が好きだったんだろ」

「真似したんだろうな」


 砂のトカゲが言った。枯草の精霊も頷いた。



 その時、そばを飛び回る水の蝶たちが初めて声を出した。


「智慧の子だった」


 水中の宮殿と今では遺跡となった王の町を賢く治めたオアシスの王。精霊たちはその王を慕い、ずっと側にいた。側にいるうちに、自然と行動を真似、考え方まで似てしまったのである。


 オルデンは同じ智慧の子でも、自由で精霊寄りの人間だ。オアシスの王は家族と民に恵まれて、責任感や正義感を持つように育った。オルデンのそばにいる精霊が精霊らしさを失わないのと比べれば、ここの精霊たちはかなり人間に近づいたようである。


 精霊と智慧の子は互いに影響を及ぼし合う。だがオルデンは元々、人間ではなく精霊に育てられたようなものだ。だから、オルデンの周りにいても精霊たちは人間ぽくはならなかったらしい。



お読みくださりありがとうございます

続きます

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