144 宝物殿に住まう龍
カワナミが馬鹿にしたせいで、オアシスの精霊が消えてしまった。花盛りの中庭に取り残された一行は途方に暮れてしまう。
「おい、カワナミ、どうしてくれんだよ」
「何がぁー?オルデン、怖い顔だねぇ、ギャハハ」
「魔法でも、他の精霊の助けでも、この扉は開きそうにないじゃねぇか」
「知らないよぉー!入らなくてもいいんじゃないのぉ?」
「ここまで来てか?」
「気になるよなぁ」
カワナミの精霊らしい無責任な反応にオルデンは呆れ、ハッサンは諦めきれない。
「気になる!」
ケニスが目をキラキラと輝かせて、青白で唐草模様を表すモザイクの扉を見つめる。カーラは扉にカンテラを翳す。虹色の光はくるくるとカンテラの周りを回った。
「嫌な感じはしないけどね」
「ケニーとは関係がなさそうか」
カーラは頷く。
「でも、ケニーが気になるなら入るわよ」
「入れるのか?」
枯草の精霊が感心してカーラを眺める。オルデンの肩から身を乗り出しすぎて、落ちそうになった。カワナミがまた、ゲラゲラと空中で笑いころげる。
「龍っぽい気配がするのよ」
「開けられそう?」
ケニスが期待を込めてカーラを見る。カーラは得意そうに胸を張る。
「イーリスの力なら、何とかできるんじゃない?」
カーラは、いにしえの賢い龍パロルが吐く炎から生まれた精霊の龍イーリスの、最期の吐息である。デロンの籠と呼ばれる道具の力で少女の姿に顕現しているが、本来はイーリスなのである。
消えてしまったイーリスは、契約精霊という特殊な形で人格とは切り離され、力の一部だけで生き延びた。しかも、本体が消えたので、カーラが本体の代わりに存在しているとも言えるのだ。だから、カーラにイーリスとしての記憶は無いが、イーリスの力が使えるのだった。
「龍の気配か」
オルデンが思案顔になった。
「ここにいるもんは、みんな龍に会ったことはないよな」
オルデンの確認に皆は、ないことを示して首を横に振る。
「トカゲは見たことあるか?龍」
ハッサンは砂のトカゲに尋ねた。砂のトカゲは、デロンの時代から生きている砂の精霊だ。
「砂漠に龍が居たなんて初耳だ」
「遠い国の伝説なら、聞いたことがありますけど」
シャキアも、この辺りの砂漠に龍がいたという話は知らないようだ。
「カーラ、どんな龍だか解るか?」
「水の龍じゃないかしら」
ヴォーラとサダは、それぞれに光る。ケニスとハッサンの腰に提げた鞘からヴォーラの白とサダの青が漏れていた。
「ヴォーラは知らないみたい」
「サダはここにいたことがあるみてぇだ」
「え、ハッサン、この宝物殿にか?」
「そうだ、オルデン」
「あら、そうなの?それなら龍に、扉を開けて、ってお願いしてよ」
「できる?サダ?」
ケニスとカーラは、ハッサンの腰にある幸運刀サダに頼む。サダは気が進まない様子で弱く瞬いた。
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