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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第三章 幻影半島
144/311

144 宝物殿に住まう龍

 カワナミが馬鹿にしたせいで、オアシスの精霊が消えてしまった。花盛りの中庭に取り残された一行は途方に暮れてしまう。


「おい、カワナミ、どうしてくれんだよ」

「何がぁー?オルデン、怖い顔だねぇ、ギャハハ」

「魔法でも、他の精霊の助けでも、この扉は開きそうにないじゃねぇか」

「知らないよぉー!入らなくてもいいんじゃないのぉ?」

「ここまで来てか?」

「気になるよなぁ」


 カワナミの精霊らしい無責任な反応にオルデンは呆れ、ハッサンは諦めきれない。



「気になる!」


 ケニスが目をキラキラと輝かせて、青白で唐草模様を表すモザイクの扉を見つめる。カーラは扉にカンテラを翳す。虹色の光はくるくるとカンテラの周りを回った。


「嫌な感じはしないけどね」

「ケニーとは関係がなさそうか」


 カーラは頷く。


「でも、ケニーが気になるなら入るわよ」

「入れるのか?」


 枯草の精霊が感心してカーラを眺める。オルデンの肩から身を乗り出しすぎて、落ちそうになった。カワナミがまた、ゲラゲラと空中で笑いころげる。


「龍っぽい気配がするのよ」

「開けられそう?」


 ケニスが期待を込めてカーラを見る。カーラは得意そうに胸を張る。


「イーリスの力なら、何とかできるんじゃない?」


 カーラは、いにしえの賢い龍パロルが吐く炎から生まれた精霊の龍イーリスの、最期の吐息である。デロンの籠と呼ばれる道具の力で少女の姿に顕現しているが、本来はイーリスなのである。


 消えてしまったイーリスは、契約精霊という特殊な形で人格とは切り離され、力の一部だけで生き延びた。しかも、本体が消えたので、カーラが本体の代わりに存在しているとも言えるのだ。だから、カーラにイーリスとしての記憶は無いが、イーリスの力が使えるのだった。



「龍の気配か」


 オルデンが思案顔になった。


「ここにいるもんは、みんな龍に会ったことはないよな」


 オルデンの確認に皆は、ないことを示して首を横に振る。


「トカゲは見たことあるか?龍」


 ハッサンは砂のトカゲに尋ねた。砂のトカゲは、デロンの時代から生きている砂の精霊だ。


「砂漠に龍が居たなんて初耳だ」

「遠い国の伝説なら、聞いたことがありますけど」


 シャキアも、この辺りの砂漠に龍がいたという話は知らないようだ。



「カーラ、どんな龍だか解るか?」

「水の龍じゃないかしら」


 ヴォーラとサダは、それぞれに光る。ケニスとハッサンの腰に提げた鞘からヴォーラの白とサダの青が漏れていた。


「ヴォーラは知らないみたい」

「サダはここにいたことがあるみてぇだ」

「え、ハッサン、この宝物殿にか?」

「そうだ、オルデン」

「あら、そうなの?それなら龍に、扉を開けて、ってお願いしてよ」

「できる?サダ?」


 ケニスとカーラは、ハッサンの腰にある幸運刀サダに頼む。サダは気が進まない様子で弱く瞬いた。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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