142 一同は進む
「音だ!とにかく音たてて進もうぜ」
オルデンが生活用のナイフでカーラのカンテラを叩きながら叫ぶ。
「魔法じゃだめだ。魔法や精霊の力は効かねぇみてぇだ」
「やっぱりデンはすごいや」
ケニスとハッサンは白刃を閃かせて先頭を歩く。騒音で萎びてゆく一方で、蔓は相変わらず伸びて来る。種も飛んでくる。水の刃も斬りつけてくる。2人の精霊刀使いは、蔓を切り払い、水や種をはじく。ついでに互いの刃を打ち合わせて、中庭にやかましい音を響かせる。
「シャキア、ケニーたちから離れんなよ」
「はいっ!」
シャキアは必死で質素なカンテラを振り回す。中に入っている油皿が枠に当たって、派手な音を立て続けている。油はとっくに飛び散ってしまった。灯芯も何処かに飛んでいった。皿の大きさからは想像も出来ないような、ガランガランという大きな音がしている。
「シャキアのお陰でやつらの弱点が分かった」
「そんな。偶然ですよ」
精霊の力で、普通なら耳を覆うような騒音の中でも会話ができる。そんな精霊と魔法の不思議に、バンサイは生き生きと筆を振るう。描くそばから砂のトカゲが乾かし、端からくるくると巻いてゆく。初めは描いた部分をひらひらさせていたが、今は巻き取りながら一同についてゆく。
「バン、立ち止まるなよ」
オルデンとカーラは、列の殿に移動する。ふとしたはずみにバンサイが足を止めそうになるからだ。バンサイは、2人にチラリと感謝の眼差しを投げた。
花畑に遊んでいた光る蝶の姿をした水の精霊たちは、攻防戦を他所に悠然と舞っている。鳥の姿をしたオアシスの精霊は、ケニスたちが宝物殿に到着するまで、のんびりと中庭の外周を回っていた。
「いい気なもんだぜ」
「本当にどういうつもりなのかしら」
オルデンがぼやき、カーラがふくれる。
「試されているのかも知れませんね」
「宝物殿なら泥棒よけなんじゃねぇ?」
シャキアが真面目に言うと、ハッサンは気楽な調子で反対した。
「何だかわからねぇが、水鳥の奴が連れて来たんだし、宝物殿に入っちゃいけねぇ道理もねぇだろ」
「そうだよね、デン!とにかく行ってみようぜ!」
1番後ろのオルデンが結論づけて、先頭にいるケニスが元気に答えた。
そのまま騒音を立てながら、一同は宝物殿に到着した。
青と白が組み合わされたモザイク模様が美しい円筒形の宝物殿には、細長い扉があった。中庭と廊下を隔てる扉と同様、上部は玉葱帽子を半分に割ったような形をしていた。幅が狭いにもかかわらず、観音開きだ。扉も壁と同じ青と白のモザイクで、図案化された蔓草文様が描かれていた。
お読みくださりありがとうございます
続きます




