141 敵対植物の弱点
ケニスは点滅して怒るヴォーラの要求を無視して、肘を内側へとすばやく曲げた。足を斜めに下げて体に角度をつけると、胸の前を通って横にしたヴォーラの剣先を下げる。
数本の蔓が千切れた。すぐ次がくる。種も飛んでくる。水の刃も襲う。ケニスはヴォーラの不満を抑え込みながら、手首を返して蔓を薙ぎ払う。
「キリがねぇな」
千切れ飛んだ蔓の先は、尖った串のようになって戻ってきた。びっしりと生えた細かい毛は針のようである。全体が毛先を鋭利にした金属製ブラシのような装いだ。とはいえ所詮は植物なので、剣で切り刻めば細かくなる。
「切っても刻んでも戻って来る!デン、どうしたらいい?」
魔法の火は効かないので、風で吹き飛ばすしかない。しかし、吹き飛ばしても種と違ってまた戻ってくるのだ。
皆が必死で対応するなか、バンサイは夢中で筆を振るう。筒状に巻いた紙の端から、戦う人や飛び回る植物をするすると描き留めてゆく。砂のトカゲは描くそばから砂を使って乾かしてくれた。描き終わった部分の紙が、ハッサンの魔法のお陰で破れることなくヒラヒラしている。
「埋めるか」
オルデンが魔法で穴を掘り土を集めて、刻んだ蔓に被せた。ところが、埋められた場所からは新しい蔓植物が伸びて来た。
「キャーッ」
シャキアがカンテラを出鱈目に振り回す。宮殿内が暗いかもしれないと思って、念の為に持ってきたのだ。振り回すカンテラの中で金属製の油皿が飛び回る。四角い格子状の鉄枠に当たって、皿はガランガランと大きな音をたてた。
「シャキア!」
オルデンが慌てて庇おうとして、ふと動きを止めた。
「音だ!」
シャキアに向かって打ち掛かってきた蔓は、音に怯んで力なく土に横たわってしまったのだ。
「ケニー!」
ハッサンは精霊刀サダをケニスの幸運剣ヴォーラに打ち付ける。互いに魔法で剣身を強化しているので、刃こぼれはせず、曲がることもない。
「わああ」
バンサイは耳を覆って蹲る。オルデンはシャキアとバンサイに防音の魔法をかけてやる。シャキアは無我夢中だったので騒音に気づいておらず、周囲の音が小さくなっても様子は変わらなかった。バンサイは立ち上がると、再び筆を取る。
オルデンは腰に下げていた生活用のナイフを鞘から出すと、カーラのランタンを叩く。カーラは一瞬嫌な顔を見せた。だが、すぐに承知してオルデンが叩きやすい位置にランタンを持ち上げた。
宝物殿を囲む花畑に、防音の魔法がなければ耐え難い程の騒音が響き渡る。蔓植物はしなしなと萎れ、種の弾幕も止んだ。ひっきりなしに飛んできていた水の刃すら、もう襲ってはこなかった。
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続きます




