140 花畑の攻防
一行の前を矢のように横切った何かは、身を翻してまた戻ってきた。
「ちょっと水鳥、あんまりじゃないか」
枯草の精霊が、束ねた枯草の足でオルデンの肩に立ち上がる。案内をしていたオアシスの精霊は無言のまま、くるりと大きく中庭を回る。
「どういうつもりなんだ」
オルデンが険しい目つきになる。ハッサンは風を操り、子供たちは炎を使って、矢のような速さの何かを防ぐ。
「なんなのよ」
「罠かな?」
バンサイには見えないが、前髪が僅かに切れて仰天した。
「ヒッ!水で切れた」
前髪が切れた後、額には水飛沫がかかったのだ。恐ろしい勢いで水の刃が通り過ぎたと解る。
「シャキア、一体何が起きてるんだ?」
「わかりません、ごめんなさい、オルデンさん」
オアシスの端にある遺跡で暮らすシャキアなら、何か知っているかとオルデンは考えたのだ。しかし、地元民でも知らないようだった。
「しつこいねぇ」
オルデンたちは優秀な魔法使いなので、それぞれが得意な魔法で防壁を作った。ひっきりなしに飛んでくる水の刃は、その後一行に害をなすことができない。だが、全く止む気配はなく、宝物殿に着くまでの間、皆を悩ませた。
水の刃に気を取られていると、足元からも何かが飛んできた。草の実がはぜ飛んだようである。
「いたっ」
風と炎の壁を突き抜けて足に当たったのは、小さな粒のようだ。細かい弾丸のような種が叢から連射される。最初の弾を食らってすぐ、皆は風に流れを作った。そうすれば、飛んでくる種を自分達から離れたところへと吹き飛ばすことができるからだ。
しかし今度は、風で方向を変えた種の連射を縫って、草の蔓が伸びて来た。蔓には細かい毛がびっしりと生えている。風や火をものともせずにうねりながら向かってくる蔓に、ケニスとハッサンは剣を抜いた。
「ケニー、幸運は使うなよ!」
「うん!わかった」
幸運刀遣いのハッサンが、ケニスに注意を促す。ケニスにとって、実戦は今回が初めてだ。地底湖で逃げた時は、捕まらないように走っただけで、ヴォーラは抜かなかったのだ。
ケニスは、素直にハッサンの指示に従った。ハッサンは幸運刀サダの力を使わず、刃だけで蔓を切り捨てて進む。踊るような足取りと滑らかな手首の動きに、一同は危険も忘れて見惚れる。
ケニスの幸運剣ヴォーラが不規則に明滅する。
「ヴォーラ不機嫌みてぇだな」
「ふん、生意気ね。ケニーの幸運を吸う気よ!」
精霊剣との交流は、まだ習い始めたばかりだ。ハッサンと出会う前には、剣の言うままに幸運の力を与えていたケニスである。その方法だと、祖先ジャイルズの二の舞だ。ギィや砂漠の魔女に立ち向かう時、ケニスの幸運は吸い尽くされるだろう。そして、足りない分は命を吸い上げられてしまうのだ。
「好きに吸い取られんじゃねぇぞ、ケニー」
「分かってる、ハッサン」
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