14 ノルデネリエの導き手
ケニスの額にある火焔を表す古代精霊文字が真っ赤に光る。まるで川が火事になったかのように、辺りが赫く染まってゆく。
「ヤバそうなら途中で逃げてこいよ!」
頼もしくなった5歳男児の背中に、オルデンが親心を見せる。
「うん!」
ケニスは振り返らずに答えた。ケニスに祝福を授けた精霊達は、固唾を飲んで見守っている。暗い地下に潜ってゆく姿が見えなくなるが、赤い光はずっと広がっていた。
ケニスは先程出てきた扉に辿り着く。水の中で虹色の焔を燃やし続けるランタンがあった部屋だ。今回は扉を開いても最初ほどには眩しくない。象牙の厨子は扉を開いたままだが、火の粉も飛ばしてこない。
「やっと来たのね」
虹色の焔はぐらりと揺れて、小さな女の子の姿になった。
「それが君の姿?」
「そうよ!」
ケニスは虹色の幼女の美しさに見惚れた。ランタンの中に収まっている姿は、身長はうんと小さいがケニスと同じ年頃に見える。だが、この道具が作られたのは大昔なのだという。
「ずっと昔からその姿なの?」
「そうね。待ち草臥れて寝ちゃったわ」
「うんと長いこと、寝ていたんだね」
「そうかしら?まだ子供よ?あんまり寝てないわよ。デロンは、いっぱい寝たら大きくなれるって言ってたもの」
ケニスはカーラをじっと見る。
「君のランタンを作ったデロンて人、うんと昔の人なんだって」
「そんな嘘、信じちゃダメ!」
カーラは相変わらず信じようとしない。ケニスは、大好きなオルデンが嘘つき呼ばわりされて腹を立てた。
「デンは凄いんだ!嘘はお前ぇだ!デンは、どんな精霊とも仲良くなれるんだ」
「フン、あたしとは仲良くないけど?」
「じゃあな、嘘つき」
ケニスは、カーラなんかの話を聞こうとするんじゃなかったと後悔した。この時間をオルデンと遊んでいたほうが良かった、と思った。
「待ちなさいよ!話があるの!」
「俺にはねぇな」
ケニスは怖い顔をしてランタンから離れてゆく。無邪気な虹色の瞳が赤い水の中で揺れる。それはどこか酷薄で、恐ろしいものですらあった。精霊の本性が垣間見えた瞬間でもある。
「あたしはノルデネリエの導き手なんだから!」
カーラは叫ぶ。ケニスは黙って出口に向かう。
「虹色の瞳の子供達にとって幸せな道を照らし出す為に生まれたのよ!」
ケニスは知らん顔で扉に向かう。
「あたしを迎えに来たんでしょ!」
ケニスはとうとう扉の外に出た。するとそこへ、カワナミがやってきた。
「ケニー、濁ってる!オルデン!早く!」
カワナミが赤い水を泡立てて呼ぶと、オルデンが水流に乗って矢のように飛んできた。
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