表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第三章 幻影半島
137/311

137 逆さまの宮殿へ

 体の周りに温風を巡らせているので、一同は寒さを感じない。石の床は、砂漠の冬の朝に冷たさを湛えている。スープの器からは湯気が白くたち昇っていた。


 シャキアは毛織の敷物を広げてくれた。オルデンは空気を暖めてクッションにする魔法を使う。皆も真似をした。魔法が使えないバンにはオルデンが空気の温座を作ってやる。


「本当に魔法は便利だなぁ」

「このひと、全然気づかないよねー。アハハハハ!」

「変なやつー!ハハハハハ!」


 カワナミと枯草の精霊がちょっかいをかけても、バンサイは全く反応しない。


「バンはどうして精霊が見えないの?」


 ケニスは不思議そうに聞く。


「どうして?いや、見えないもんは見えないよ」


 バンサイも不思議そうに答える。


「ふうん」

「そういうひともいるのね」


 子供たちは少し不服そうだ。


「そういう人間のほうが多いぜ」

「デロンの時代には見えない奴は少なかったな」


 オルデンがスープを啜りながら言うと、砂のトカゲが昔のことを教えてくれた。


「姿を見せようとすれば、だいたいの人間は精霊を見ることが出来たもんだ」

「気づかないひとばっかりだと、つまんないよねぇー!」


 いつのまにか精霊に気がつく人が減ってしまった。つまらないので、精霊たちも姿を現さなくなっていったのだ。



「済んだら水辺に下りましょう」


 皆で汲み置きの水で食器をすすぐと、シャキアは先に立って斜面を進む。


「デン」


 ケニスがオルデンの袖を引っ張る。


「町が近いね。魔法使っていいの?」

「大丈夫ですよ」


 シャキアがにこりと笑って安心させる。オルデンは感謝の眼差しを投げてから、ケニスに返事をした。


「派手なことしなきゃ、いいんじゃねぇか」


 オアシスの町は歩いて行かれる距離にある。魔法の気配に敏感な人がいたら気づかれてしまう。だが、シャキアが住む町外れの遺跡には、デロンの時代から炎が燃え続けている魔法の炉があるのだ。たとえ魔法の気配に気づかれても、余程の異変でもなければ怪しまれることはないだろう。


「わかった!」

「あったかくしとけよ」


 オルデンはケニスとカーラの頭を軽く撫でる。



 水辺まで来たが、人影は見えない。アルマディーナの人々もこんな外れまで水を汲みには来ないようだ。


「宮殿、ないねぇ、デン」


 ケニスがオルデンを見上げてガッカリした声を出す。


「なんだ、逆さまの宮殿を見に来たのか?」


 揶揄うような声とともに静かな朝の水面を割って、水で出来た鳥が飛び上がる。オアシスの精霊だ。


「おはよう!俺、ケニーっていうんだ」


 ケニスは、ぱあっと顔を輝かせる。


「俺はオアシスの精霊だよ。宮殿に行きたいなら案内するぜ」


 シャキアは、あまりにも呆気ない成り行きに拍子抜けして言葉を失った。



お読みくださりありがとうございます

続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ