136 遺跡で朝ごはん
薄水色の冬空は高く、雲は薄く白く空を這ってゆく。オアシスの朝は湖を抱く砂丘を薔薇色に染めてゆく。ケニスはパチリと目を覚まし、ピョンと飛び起きた。気配でカーラも立ち上がる。
大人たちは少し離れた場所で朝食の準備をしている。ふたりが寝ていたのは、かつてデロンの工房だった場所。ほとんど崩れ去った遺跡なので、他の部屋が何に使われていたかはよく分からない。そもそも壁もおよそ無くなってしまぅている。部屋の区切りも不明だ。
焚き火の精霊カガリビと炉の火の精霊アルラハブが、シャキアとオルデンを手伝っている。台所のかまどだったかもしれない場所に火を点けてくれたようだ。
シャキアが子供たちに素焼きの深皿を渡してくれる。
「お客さんが来るわけじゃなし、飲み物用と食べ物用のふたつしか食器が無いんですけど」
シャキアは申し訳無さそうに表情を曇らせる。
「子供たちから順番に使ってください」
「ありがとう」
「急いで食べなくちゃね」
ケニスとカーラはお礼を言って受け取った。しかしオルデンは魔法で器を作り出した。遺跡に散らばる石を集めて、魔法の水で洗い砂で磨く。
「まあ、使いやすそうですね」
シャキアは大変喜んだ。バンサイは懐から矢立を取り出すと、器の縁にバンの星型である点と、5つの先端があるカーラの星型と、ギザギザなシャキアの星型を並べて描いた。カーラはとても気に入って、墨を使ったバンの模様を虹色の火で炙る。精霊と魔法の力が働いて、模様はうっすらと銀の光を帯びた。
「これでずっと絵が消えないわ」
カーラは満足そうに目を細めた。
「光ってる」
ケニスも喜んだ。
「ちょっとしたもんだな」
「可愛い」
「いいねぇ」
オルデンは感心し、シャキアが誉める。ハッサンも気に入ったようだ。バンは、また新しく目にした魔法に驚嘆している。
シャキアは火にかけられた素焼きの壺から、大きい木のスプーンで器に汁物を分けてゆく。
「この丸い実、美味しいわね」
「それはお豆よ」
「お豆?」
「丸い豆もあんだな」
精霊の森には細長い豆がなる薮がある。森の豆には緑色のものと茶色いものがあった。だが、シャキアが作ってくれたスープには、黄色がかった丸いものが入っていたのだ。オルデンも初めて見たので、珍しがってじっくりと見る。
「港じゃあんまり食べないな」
ハッサンは知っているが、アルムヒートの港町では一般的とは言えない食べ物のようだ。スープには豆の他に玉葱や砂漠ナスが入っている。野菜のほうは、皆知っていた。バンサイは幻影半島を旅して長いので、どの食材にも馴染んでいた。
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