135 遺跡の空に月は傾く
ひとしきりわいわいとバンの絵を眺めた一同に、ふと沈黙が訪れた。月は傾き、ケニスは眠そうである。カーラは精霊なので眠くなったりはしない。精霊が眠るのは弱っている時だけだ。しかし、今は人間の子供のふりをしているので、食事も取るし眠りもする。
「今日はもう移動もしないし、ケニーたちはもう寝かさなきゃな」
ハッサンが子供たちを気遣った。オルデンはニッと笑ってケニスとカーラの頭を撫でる。
「今日はいろんなことがあったなあ」
ケニスは頷く。
「うん!逆さまになったし、昔の人や町をみた!面白かった」
「デロンがいたわ」
カーラが嬉しそうに言った。
シャキアが膝を屈めて子供たちに声をかけた。
「ねえ、オアシスの宮殿に行ってみませんか?」
時の老人が見せてくれた映像では、真昼の水面に華やかな色あいの宮殿が映っていた。岸辺には無い、水の中だけにある宮殿だ。真っ青な壁に玉ねぎのような形をした金色の屋根を乗せて、豪華な姿を見せていた。
「明日?」
ケニスがあくび混じりに答えた。
「そうですね。運が良ければ明日」
「運が悪ければ?」
ケニスは不安そうに聞く。
「オアシスの精霊に頼んでみましょ」
「水の鳥だね?」
ケニスは、映像に出てきた水でできた鳥の姿をした精霊を思い浮かべる。カワナミが笑いながら飛び回る。
「鳥の宮殿なの?」
「そうじゃありませんけど」
「シャキアは行ったことある?」
「いいえ、話を聞いたことがあるだけです。見たのもさっきが初めてですよ」
「オアシスの鳥、どうやってあの宮殿に行くのか知ってるかなあ」
「オアシスの精霊だもの。道を開いてくれるかもしれませんよ」
シャキアはニコリと笑う。
オルデンもつられて笑うと、子供たちの肩をそっと押す。
「何にせよ明日だ。今日はもう寝な」
魔法の風が暖かに子供たちを包み込む。冷たそうな石の床だが、ケニスとカーラは心地よさそうに横になる。バンサイは子供たちを取り巻く空気に手を伸ばす。
「魔法ってなぁ、やっぱり便利なもんでごぜぇすなぁ」
面白そうに周りの冷気と暖かい空気を交互に触りながら、バンサイは目を細めた。
「水の中でも絵は描けますかね?」
「描けるさ」
オルデンはバンサイの疑問に答えて、もうぐっすりと眠り込んだ子供たちを優しく眺める。
「まわりに空気を置いとくからな」
「へーっ、そいつぁ凄えや」
カワナミは笑い転げる。バンサイには見えないので、特に気を悪くすることもない。作業場の炉には、炉の炎から生まれたアルラハブが胡座をかいていた。いつのまにかカガリビと仲良くなって何か話している。砂のトカゲはデロンの工房だった場所を歩き回っている。枯草の精霊はオルデンの肩で皆の様子を眺めていた。
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