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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第三章 幻影半島
132/311

132 水の膜で上映会

 ジャイルズの力に触れて目覚めたカガリビ、デロンの力に触れて目覚めたアルラハブ、そしてオルデンの力に触れて目覚めたカワナミ。3人とも似たような生い立ちだ。そして、3人とも目覚めたきっかけの人間から、名前をもらっている。違う時代の出来事だが、その3人の精霊がいま一堂に会している。


「カガリビが生まれた洞窟には、後でデロンが住んで、更に後で俺たちが住んだんだ」


 ここに集まる精霊も人も、みな何かしらデロンと関わっている。オルデンは不思議な縁を感じた。



「なあカワナミ」


 オルデンがカワナミに話しかける。渦になって空中をウロウロしていたカワナミが幼い少年のような姿を現した。


「なに、オルデン」

「水の膜でデロンの姿を映せねぇかな」

「見たことないからできないよぅー!アハハハハ」


 カワナミが笑うのはもっともだが、オルデンはデロンが結んだ縁を大切にしたかった。がっかりして悲しげな目を見せる。


「残念だわ」


 カーラが言った。カーラにとっては生みの親と言えるデロンだ。その姿を再び見られたら、さぞかし嬉しいことだろう。一方バンザイにとっては、訳もわからず遺跡から出られなくなった元凶である。どんな奴なのか見てやろうという、いささか意地悪な気持ちになっていた。



 オルデンはあれこれ思案していたが、やがて大きく頷いた。


「時の爺さん、来てくれ」


 オルデンが呼びかけると、灰色の髭を長く垂らした老人が現れた。ハッサンとバンには見えないので、ケニスが小声で説明した。


「久しいの、オルデン」


 老人は枯れた小枝のような指で、オルデンの額に触れる。額からは金色の光りが溢れる。シャキアが寛いだ表情で、オルデンの光を褒める。オルデンに宿る魔法は、シャキアにとってゆったりと安心出来るものであったようだ。


「美しくて豊かな光ですね」


 オルデンは言葉もなく、綺麗に剃り上げた頭に手をやる。今は布に覆われていることに気づいて、余計に決まり悪そうに目を逸らした。



「何用じゃ、オルデン」

「カワナミの作る水の膜に、昔の様子を誰にでも見えるように映せないかな?」

「誰にでもか」

「ここにいるバンは魔法が使えないけど、壊れたデロンの籠に捕まっちまってな」

「そりゃ気の毒だが、壊れたデロンの籠じゃ、誰にもどうしようもないぞよ」


 老人が眉をひそめる。


「他の連中もデロンと縁があってよ」

「まあ、見せるだけなら出来なくはないが」

「頼むよ」

「誰にでも見えるの?爺ちゃん凄いねぇー」


 カワナミはけたたましく笑うと、壁のない方を向いて水でスクリーンを作り出した。老人はカーラの方を向く。


「それ、そのカンテラで照らしてみよ」

「いいわよ」


 カーラもデロンの姿が見えるとなれば、協力的である。こうして、時のお爺さんが見せるこの地の昔をバンも見せてもらうことになった。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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