131 炉に住む精霊アルラハブ
立ち止まっていたオルデンとシャキアが再び加わり、一行は一部残された白い壁に到着した。壁は大人の背丈を超えて、視界を遮っている。ぞろぞろと壁の向こうに回り込むと、そこには鍛冶場が現れた。
「壁は1箇所しかないけど、部屋みたいだね」
ケニスが面白そうにキョロキョロした。カーラは小さく揺れる炎を見つけた。
「この火は一度も消えたことがないのね」
「ええ。魔法の火なんです」
シャキアは炉に燃える火に近づいた。
「今晩は、アルラハブ」
小さな炎は急に燃え上がって、中から全身が火でできた拳大の若者が飛び出した。
「なんだ、ぞろぞろと」
「精霊大陸からのお客さんですよ」
「ふーん」
「ケニスだ。よろしく」
「カーラよ」
「お前たち、変な精霊だな」
アルラハブはケニスとカーラを不躾にジロジロと見る。精霊の血が混じる人間であるケニスと、特殊な精霊カーラ。精霊たちから見れば、やはり不審な存在であるようだ。
「アルラハブ、あんただって契約精霊でしょ」
「違うよ。私は最初からここで生まれた炎の精霊さ」
「炉の外側に俺と同じ文字が書いてある」
ケニスが炉に書いてある古代精霊文字を見つけた。火焔を表すその文字は、ケニスの額にも刻まれていた。
「デン、邪法じゃないよね?」
不安そうなケニスの肩をポンと叩くと、オルデンは頷いた。
「南の砂漠に住む人々が精霊に力を借りるやり方だな」
南の砂漠は、精霊大陸南部に広がる砂漠である。イーリスを縛り、ギィを拐った砂漠の魔女が生まれた場所だ。南の砂漠に住む民はその昔、精霊から力を借りる為に精霊文字と呼ばれる字を道具に書いた。契約精霊を作り出すデロンの籠と違って、精霊を呼ぶだけの文字である。
「アルラハブは呼ばれて来たのね?」
「ここで生まれたって言ってるだろ」
「カガリビみたいなもんか?」
オルデンがつぶやくと、炉の中からカガリビが顔をだす。
「よう」
アルラハブはギョッとして、炎でできた長い髪を逆立てた。
「わっ、なんだお前」
「カガリビってんだ」
「炎のくせして、水や風みたいにふらふら渡り歩くのか」
「余計なお世話だ」
カガリビは、オルデンが住み着いた洞窟で生まれた。大昔に、ケニスの祖先である龍殺しのジャイルズが焚き火を起こした時に生まれた。
「アルラハブはデロンに名前を貰ったのか?」
オルデンが尋ねる。
「そうだ」
「おんなじー!」
カワナミが喜んで幼子の形を崩し、笑いながら渦に姿を変える。
「このカワナミは、デンの力で目覚めた川の精霊なんだぜ」
ケニスがアルラハブに伝える。
「3人、似たようなもんだな」
カガリビがアルラハブを見てニヤッと笑った。そういうカガリビはジャイルズから名前を貰った。みな、人間から名付けを受けた精霊である。
「ここでもデロンは暮らしていたのね」
カーラがしんみりとアルラハブを見つめる。ケニスがカーラの癖毛を撫でた。
お読みくださりありがとうございます
続きます




