表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第三章 幻影半島
130/311

130 アルマディーナの炎

「熱くないんですか?」


 カンテラの近くに掌を置くケニスに、シャキアは驚いた。


「精霊の炎だからね。燃えるし、時には熱いけど、今は熱くないよ」


 ケニスにはご先祖様の炎でもある。先祖であるイーリスが子孫を想う気持ち。それによって遺された火なのだ。この虹色の火焔がケニスを害することはない。だが、それを説明するのは憚られる。幸いシャキアは精霊と親しい人間だったので、不思議な性質は精霊の力だということで納得してくれた。



「魔法の工房ってのは、どこにあんだい?」


 オルデンは好奇心を見せた。シャキアが答えるより先に、カーラがランタンを動かした。今回も虹色の光と火の粉が、ケニスの行くべき先を知らせる。


「こっちね」


 カーラはケニスの手を引いて、迷いなく足を踏み出す。


「行ってみよう」


 ケニスも躊躇することなく、カーラと並んで歩き出す。


「デロンの魔法が感じられるな」


 オルデンも当然という顔をして続く。



「へーえ。分かるのか」


 ハッサンが改めてオルデンの万能ぶりに驚く。オルデンの見た目は、中肉中背で茶色い髪と紫色の目をしたハゲオヤジである。どこか印象の薄い、気の利かない感じを滲ませる男だ。意外な感じも手伝って、ハッサンはオルデンが見せる能力に一々感心させられてしまう。


「魔法は人間の中から出てくる力だからな」

「人によって感じが違うんだぜ」


 オルデンの言葉に、ケニスが振り返って説明を付け足す。捉えどころのない解説だが、ハッサンにはなんとなく分かった。その人の持つ雰囲気というものはある。厳しい感じや優しい感じといったものだ。魔法も、そうした雰囲気のひとつなのである。



「綺麗な上に、魔法の力があるカンテラなんですね」


 シャキアは子供に対しても丁寧に接する。親なし宿なしのオルデンは、そんな人と出会うのは初めての経験だ。精霊の中にはそういう者も見かける。だが、人間では会ったことがないタイプだった。


「シャキアは丁寧な人なんだな」


 オルデンは嬉しそうに言った。シャキアはびっくりして眼を見開く。深く神秘的な夜空の藍色が、瞳の奥で恥じらいを見せた。その様子にオルデンは、覚えず目元を優しく下げる。オアシスから運ばれる水と緑の匂いが、砂漠の冬を彩る月光を震わせる。



「どうしたの?早く行こうよ、デン!」


 先を行くケニスが足を止めて声をかける。カーラは興味がなさそうにフンと小さく息を吐く。ハッサンとバンは子供たちのすぐ後ろを歩いていて、精霊たちもついて来ていた。


「ああ、今いく」


 オルデンは答えて、目線でシャキアを促すと、急いで子供たちの後を追う。シャキアはおかしそうに眼を細めると、シンプルなアルマディーナのカンテラを手に夜の遺跡を進んでいった。


お読みくださりありがとうございます

続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ハゲオヤジ? おかしい。私の脳内ではイケオジなのに。 [一言] 謎の東洋人に続き女性も出てきて、旅の面子が揃っていく感じですね。 名前の由来が立派なケニスくん、何歳くらいまでが描かれ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ