129 星の形はさまざま
シャキアと名乗った女性は、遺跡に住み着いてカンテラを作っているという。同じ小型の手提げランプでも、カーラが宿るデロンの籠とは随分違う。シャキアの手にしたカンテラは、極端に単純な造りのものであった。
シャキアは、円蓋で覆われた藍色のランタンをしげしげと観察する。
「アルマディーナでは、色のついている生活道具はひとつもないんですよ」
「ひとつも?」
ハッサンが声を上げた。子供たちは森育ちで、知っている町はアルムヒートだけ。アルムヒートは全体的に彩り豊かな街並みである。ハッサンたち庶民でも、素焼きの皿に青や緑のちょっとした模様をつける。だが、それがアルムヒートの特徴なのかは判断できない。他の町でもそういうものなのかは分からなかった。
ハッサンは船の護衛をして暮らしていたので、いくつかの港町を知っている。中心はマーレニカとアルムヒートの往復だが、年によっては途中で別の小さな港に寄ることもあった。そうした町々で、生活の道具にひとつも色をつけない土地は見たことがない。
「ええ。色をつけるのは特別なものなんです」
「へー」
ハッサンが珍しがる。
「染料が高いんですかい?」
バンサイが興味を示す。本来なら言葉が通じなくてもシャキアも精霊と親しい人間なので、意味はすんなりと通じる。
「それもありますが、私たちの祖先は色のない砂漠を越えてオアシスに辿り着いたので、色は特別なんです」
「なるほどねえ」
バンサイは、絵描きらしく色の話を面白く感じているようだ。悪意をも退ける守りの魔法を込められた輝石のお陰で、旅の間言葉が通じなくとも困らずにきた。長く滞在した土地では、片言の会話も出来た。だがやはり、すんなりと話ができるというのは格別である。
「カーラちゃんのカンテラは、筒の部分も素敵だわ。光が穴の形に溢れて綺麗よ。お花かしら?」
「ありがとう。これは星なの」
カーラは得意そうに答える。どうやらアルマディーナでは、カーラのランタンにあるような星形はないようだ。虹色の光が漏れるのは、五角形と三角をくっつけて先端が5つ尖った形の星。シャキアにはそれが花の形に見えたのだった。
「私たちは、星はもっと細かいギザギザで表します」
「あっしんとこは、点を描くかな」
カツラギ・バンサイが会話に加わる。
「へーえ、星ひとつ描くんでも、色々なんだなぁ」
ハッサンは感心する。オルデンも頷いた。
「カーラの星が好きだな」
ケニスはカンテラに手をかざして、掌に虹色の星を映す。
「ふふっ」
カーラは嬉しそうに目元を崩す。ケニスはしばらく手の上で虹色に光るを眺めていた。
お読みくださりありがとうございます
続きます




