128 カンテラ職人のシャキア
一行の前にすらりと立った女性の声は、耳に心地よい風のよう。身体に纏う布も白く、心持ち蒼く月光に染まっている。静かな夜風にひらひらと、裾野あたりが波を打つ。
白い布の隙間から、星空を映して深い深い夜空の藍色が見える。オルデンはその煌めきに囚われて、呆然と立ち尽くした。ハッサンよりは歳上のようだが、目元を見る限りまだ若い女性である。
「おばさんは、ここに住んでるの?」
10歳のケニスにとっては、うんと歳上だ。ハッサンよりもオルデン寄りに感じたようだ。女性は歳を気にする人も多いが、幸いシャキアは特にこだわりがないらしく、優しい顔で頷いた。
それを見たカーラは不思議そうに聞く。
「ここは遺跡じゃないの?」
ケニスとカーラの質問で、オルデンはハッと我に返る。オルデンは改めて女性と眼を合わせると、自己紹介をした。
「俺たちは精霊大陸から来た」
「そうじゃないかと思いました」
「俺はオルデン、こっちがケニー、それからカーラ、ハッサン、バンだ」
オルデンが紹介すると、皆は一歩ずつ前に出た。
「カワナミだよ!」
カワナミが水飛沫を飛ばす。白い布を巻き付けている女性は、精霊が見えているようだ。おかしそうに眼を細めて、指先でカワナミをつついた。カワナミも喜んで笑い転げる。
「俺っちは枯草の精霊。名前はないよ!」
枯草の精霊はオルデンの肩に座って、枯草の腕をひらひらと振った。
「あなたは幻影半島の精霊ね?」
「そうだよ!」
バンサイには一切の精霊が見えず、ハッサンには一部の精霊しか見えない。何が気に入らないのか、枯草の精霊は相変わらずハッサンに姿を現さない。たぶん、理由は無いのだ。精霊とはそういうものである。
「ねえ、あなた名前は?」
カーラが虹色の光りを向ける。女性は興味深そうにランタンを見た。
「感謝する人。カンテラを作っています」
「カンテラを?」
カーラが眼を輝かせ、ケニスと顔を見合わせた。シャキアは幻影半島の人なので、カーラの灯りもカンテラと呼ぶ。
「カーラのカンテラ、素敵ですね」
ニコッと目元を和らげて、カンテラ職人のシャキアが膝を屈める。カーラはランタンを持ち上げて、シャキアによく見えるようにした。
「ここアルマディーナのカンテラは、うんとシンプルですから」
シャキアも手にした小さなカンテラをカーラに見せる。魔法の宿らない、飾り気がない鉄の灯り入れだ。四角い枠の中に小さな鉄の皿がある。皿は丸くて、くるりと一巻きした灯芯が横たえてあった。皿からわずかにはみ出した芯の先では、頼りない火がオレンジ色に灯っている。
「私はこの遺跡に住んでいます。ここは魔法の工房があるから、とっても気に入ってるんです」
「魔法の工房?」
「ええ。殆ど崩れているんですけど、炉とカナトコは使い勝手が驚くほど良くて、しかもちっとも傷まないんですよ」
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続きます




