126 逆さまの流砂
逆さまに天井からぶら下がる子供たちは、思わず足をばたつかせた。天井の湿った砂が波打つ。川面に虹色の布を流したように、光が揺れて天井を走った。
「逆さまー!変なのー!」
カワナミは、わざわざケニスとカーラの顔の周りを飛び回る。枯草の精霊も、面白がって夜風の精霊と一緒に天井付近をうろうろしている。
「おい、足」
オルデンが子供たちに注意を促す。小さな足が、動かす度に砂の中へとめり込んでゆく。
「えっ?」
「あら?」
ケニスとカーラの足が持ち上がらなくなった。持ち上げようとすると、余計に埋まってしまう。
「何よ、これ!」
カーラが癇癪を起こして、沢山の火の粉を飛ばした。
「うわっ、やめろ、カーラ」
「うおっ、あちぃ」
オルデンが叱り、ハッサンは火の粉が目に入らないように下を向く。
「流砂じゃねぇのか?カワナミ、水入れろ!」
ハッサンが横目でカワナミに指示をする。
「水?」
カワナミは笑い転げる。
「天井に流砂だって?」
熱砂の蛇が腑に落ちない様子で言うが、砂のトカゲは正反対の反応を示す。
「流砂か。デロンの魔法ならあり得るな」
「これも泥棒よけの罠かなんか?」
ハッサンが砂のトカゲに聞く。
「どうだろう?知らないな」
「知らねぇのかよ」
ハッサンが軽い調子で言うと、カワナミが笑う。何故かハッサンに姿を見せない枯草の精霊も、ケラケラと軽やかに笑う。
「カワナミ、水が増えると緩んで足抜けるから。頼む」
「そっか」
カワナミが流砂に潜り込んで水を注ごうとした。しかし、頭から天井の砂に突っ込んだ後で、ぽこんと再びこちら側に顔を出した。
「ねえ、どっかに繋がってるよ?」
オルデンは、ハッとして透かし細工の金属球を見る。集中した様子で魔法を探っている。
「元の使い途なのかどうかは分かんねぇが」
皆の視線がオルデンに集まる。
「この道具がどっかの鍵を開けたみてぇだ」
「扉がここの天井に開いちゃったんだね!」
「そうだな、ケニー」
カワナミがさっさと流砂に飛び込み、水の力で向こう側に行って帰ってきた。
「オルデン、あっちも遺跡だった!」
「行ってみるか」
「人間が戻って来られるかは知らないけどねー」
カワナミは、お得意の大笑いをしながら皆の周りで飛沫を飛ばす。突然空中から飛んでくる水や火の粉に、カツラギ・バンサイも慣れてきた。無言で顔を拭っている。
「遺跡か」
オルデンは天井を睨んで言う。
「行ってみようぜ」
「そうね、ケニー」
子供たちは、逆さまになったまま足をもぞもぞと動かし始めた。ふたりは砂にずぶずぶと沈んでゆく。
「オルデンも行こうよ!」
「ああ、今行く」
「ハッサンも来なさいよ」
「行ってみるか」
ハッサンは風に乗って天井へと向かう。
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