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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第三章 幻影半島
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126 逆さまの流砂

 逆さまに天井からぶら下がる子供たちは、思わず足をばたつかせた。天井の湿った砂が波打つ。川面に虹色の布を流したように、光が揺れて天井を走った。


「逆さまー!変なのー!」


 カワナミは、わざわざケニスとカーラの顔の周りを飛び回る。枯草の精霊も、面白がって夜風の精霊と一緒に天井付近をうろうろしている。


「おい、足」


 オルデンが子供たちに注意を促す。小さな足が、動かす度に砂の中へとめり込んでゆく。


「えっ?」

「あら?」


 ケニスとカーラの足が持ち上がらなくなった。持ち上げようとすると、余計に埋まってしまう。


「何よ、これ!」


 カーラが癇癪を起こして、沢山の火の粉を飛ばした。


「うわっ、やめろ、カーラ」

「うおっ、あちぃ」


 オルデンが叱り、ハッサンは火の粉が目に入らないように下を向く。



「流砂じゃねぇのか?カワナミ、水入れろ!」


 ハッサンが横目でカワナミに指示をする。


「水?」


 カワナミは笑い転げる。


「天井に流砂だって?」


 熱砂の蛇が腑に落ちない様子で言うが、砂のトカゲは正反対の反応を示す。


「流砂か。デロンの魔法ならあり得るな」

「これも泥棒よけの罠かなんか?」


 ハッサンが砂のトカゲに聞く。


「どうだろう?知らないな」

「知らねぇのかよ」


 ハッサンが軽い調子で言うと、カワナミが笑う。何故かハッサンに姿を見せない枯草の精霊も、ケラケラと軽やかに笑う。



「カワナミ、水が増えると緩んで足抜けるから。頼む」

「そっか」


 カワナミが流砂に潜り込んで水を注ごうとした。しかし、頭から天井の砂に突っ込んだ後で、ぽこんと再びこちら側に顔を出した。


「ねえ、どっかに繋がってるよ?」


 オルデンは、ハッとして透かし細工の金属球を見る。集中した様子で魔法を探っている。


「元の使い途なのかどうかは分かんねぇが」


 皆の視線がオルデンに集まる。


「この道具がどっかの鍵を開けたみてぇだ」

「扉がここの天井に開いちゃったんだね!」

「そうだな、ケニー」



 カワナミがさっさと流砂に飛び込み、水の力で向こう側に行って帰ってきた。


「オルデン、あっちも遺跡だった!」

「行ってみるか」

「人間が戻って来られるかは知らないけどねー」


 カワナミは、お得意の大笑いをしながら皆の周りで飛沫を飛ばす。突然空中から飛んでくる水や火の粉に、カツラギ・バンサイも慣れてきた。無言で顔を拭っている。


「遺跡か」


 オルデンは天井を睨んで言う。


「行ってみようぜ」

「そうね、ケニー」


 子供たちは、逆さまになったまま足をもぞもぞと動かし始めた。ふたりは砂にずぶずぶと沈んでゆく。


「オルデンも行こうよ!」

「ああ、今行く」

「ハッサンも来なさいよ」

「行ってみるか」


 ハッサンは風に乗って天井へと向かう。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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