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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第三章 幻影半島
125/311

125 工房の天井

 ケニスが強い信頼を見せて、カーラの手をぎゅっと握る。頼られたカーラは、嬉しさと自負心を混ぜたような表情になった。2人は目を見合わせてニコリと笑う。


「確かにそうだな。カーラ、ランタンの光でなんかわかんねぇのか?」

「さっきから試してるわよ、オルデン」


 カーラは、1箇所に光を当てたり、ランタンを振ってみたり、話しながらも試している。ケニスもずっと辺りを確かめている。


「あっ、ねえ」

「なに?ケニー」

「天井が」

「ホントだわ!さすがケニーね」


 ケニスの言葉に釣られて皆が天井を見上げる。


「なんだ?」

「砂が落ちてこねぇな?」


 バンが呟き、ハッサンが首を捻る。視線の先には、天井一面を覆う砂があった。布をはったように岩の天井を覆う砂は、湿って色が濃くなっている。何故か一粒も落ちてこないその砂の上では、虹色の火の粉が踊っていた。



 地上の床に開いた入り口から、月光が階段を降りてくる。蒼白い月の光は、カーラのランタンが(こぼ)す虹色に溶けて、部屋の奥へは届かない。部屋のほとんどを満たすのは、星の形をして踊る虹色の光である。


 精霊の火が灯る魔法のランタンは、かつてその作者が住んでいた作業場跡をくまなく照らす。天井でさえ例外ではなかった。それどころか、天井には虹色の火の粉がパチパチと跳ねていたのだ。


「鍵は一旦後回しね」


 カーラがきっばりと言った。バンは再び不機嫌になる。


「天井を調べれば、鍵のこともなんか分かるんじゃねぇの」


 ハッサンは呑気にバンを励ました。



「何だろうな?精霊の気配はねぇけど、デロンの魔法は残ってんだな?」


 砂のトカゲが不思議そうに言った。


「トカゲも知らなかったのかよ」

「気が付かないように魔法がかかってたんだと思うぜ」


 熱砂の精霊が口を出す。


「そうだねぇ。へんてこな魔法だぜ」


 枯草の精霊が細い腕をひらひらさせると、カワナミがけたたましく笑う。


「ハッサンが言う通り、天井を調べりゃ鍵のことだって分かるかもしれねぇ」

「他に手がかりもないでしょ」


 オルデンがバンを宥めると、カーラはフンと鼻を鳴らして馬鹿にした。バンの額には不服そうな皺が寄ったが、とりあえずは頷く。


「違ぇねぇや。天井以外は、特に変わった所も見当たらねぇですね」

「決まりね」

「決まりだね」


 カーラとケニスは手を繋いで風を纏い、飛び上がる。天井付近まできたところで、2人はあっ、と小さな声を上げた。


「ハハハハハ!髪の毛がー!」


 天井あたりの魔法で、ふたりはくるりと回転させられたのだ。茶色に変えている短い巻き毛と長い癖毛だけが、床に向かって垂れ下がっていた。身体を覆う布は何故かひっくり返ることなく、まるで天井のほうが地面になったように見えた。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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