125 工房の天井
ケニスが強い信頼を見せて、カーラの手をぎゅっと握る。頼られたカーラは、嬉しさと自負心を混ぜたような表情になった。2人は目を見合わせてニコリと笑う。
「確かにそうだな。カーラ、ランタンの光でなんかわかんねぇのか?」
「さっきから試してるわよ、オルデン」
カーラは、1箇所に光を当てたり、ランタンを振ってみたり、話しながらも試している。ケニスもずっと辺りを確かめている。
「あっ、ねえ」
「なに?ケニー」
「天井が」
「ホントだわ!さすがケニーね」
ケニスの言葉に釣られて皆が天井を見上げる。
「なんだ?」
「砂が落ちてこねぇな?」
バンが呟き、ハッサンが首を捻る。視線の先には、天井一面を覆う砂があった。布をはったように岩の天井を覆う砂は、湿って色が濃くなっている。何故か一粒も落ちてこないその砂の上では、虹色の火の粉が踊っていた。
地上の床に開いた入り口から、月光が階段を降りてくる。蒼白い月の光は、カーラのランタンが零す虹色に溶けて、部屋の奥へは届かない。部屋のほとんどを満たすのは、星の形をして踊る虹色の光である。
精霊の火が灯る魔法のランタンは、かつてその作者が住んでいた作業場跡をくまなく照らす。天井でさえ例外ではなかった。それどころか、天井には虹色の火の粉がパチパチと跳ねていたのだ。
「鍵は一旦後回しね」
カーラがきっばりと言った。バンは再び不機嫌になる。
「天井を調べれば、鍵のこともなんか分かるんじゃねぇの」
ハッサンは呑気にバンを励ました。
「何だろうな?精霊の気配はねぇけど、デロンの魔法は残ってんだな?」
砂のトカゲが不思議そうに言った。
「トカゲも知らなかったのかよ」
「気が付かないように魔法がかかってたんだと思うぜ」
熱砂の精霊が口を出す。
「そうだねぇ。へんてこな魔法だぜ」
枯草の精霊が細い腕をひらひらさせると、カワナミがけたたましく笑う。
「ハッサンが言う通り、天井を調べりゃ鍵のことだって分かるかもしれねぇ」
「他に手がかりもないでしょ」
オルデンがバンを宥めると、カーラはフンと鼻を鳴らして馬鹿にした。バンの額には不服そうな皺が寄ったが、とりあえずは頷く。
「違ぇねぇや。天井以外は、特に変わった所も見当たらねぇですね」
「決まりね」
「決まりだね」
カーラとケニスは手を繋いで風を纏い、飛び上がる。天井付近まできたところで、2人はあっ、と小さな声を上げた。
「ハハハハハ!髪の毛がー!」
天井あたりの魔法で、ふたりはくるりと回転させられたのだ。茶色に変えている短い巻き毛と長い癖毛だけが、床に向かって垂れ下がっていた。身体を覆う布は何故かひっくり返ることなく、まるで天井のほうが地面になったように見えた。
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