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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第三章 幻影半島
124/311

124 何かがある筈

 デロンの過去を知った一行だが、閉じ込められ問題はまだ解決していない。なぜカーラのランタンがこの部屋に導いたのかも解らない。


「何にも無いねぇ」

「でも、ケニーが幸せになる何かがあるはずよ」

「記録があるわけでもねぇしな」

「こんだけ見事に残ってんだから、何かはあるんじゃねぇの?」


 ハッサンが、あちこち押したり(さす)ったりしている。オルデンは砂のトカゲに改めて聞く。


「何か覚えてることねぇか?」

「そうだなあ」

「トカゲは鍵にどんな力を貸していたんだ?」

「ああ、それなら、悪い奴を追い払う役目をしてたんだ」

「どうやって?」

「この道具は、見えない壁を作って入れないようにする魔法の鍵で、そこに砂の力を貸して、無理に入ろうとする奴を足元の砂で遠くにやっちまうのさ」



 部屋を一通り見て回ったカーラとケニスが、トカゲの隣に戻ってきた。


「鍵直らないかしら」

「時の爺さんにデロンの作業を見せてもらったことがあんだけどよ」

「見たのか?」


 ハッサンが驚いてオルデンに聞く。


「見たけど、ありゃ、無理だ」

「どうしてだよ?」

「デロンの知識と本人の魔法がなけりゃ、デロンの籠をどうにかすることは出来ねぇのさ」


 他人がなにか細工を加える隙を与えない、デロンだけの道具だったのだ。



「時のお爺さんに頼んで、壊れる前に戻せないの?」


 カーラが言った。


「そうだよ!そうして貰おうよ」


 ケニスも乗り気だ。


「そいつぁ名案だな」


 ハッサンも大きく頷く。カツラギ・バンサイは、ただ呆気に取られていた。精霊とも魔法とも縁が薄い身の上で、次々に想像もつかない世界の話を聞かされているのだ。頭も心も追いつくことが難しい。


「時の爺さんは、命に関わることでもありゃあ、ちょっと昔に連れてってはくれるがなあ。物の時間は戻せねぇ。たいていは昔のことを見せてくれるだけだ」

「そっか」


 ケニスはがっかりする。他の皆も黙り込む。



「デロンの籠はな、デロン以外が使う復元魔法も阻害するようになってる」

「せめて登録されちまったバンが魔法使いならなぁ」


 オルデンの説明に、ハッサンがため息をつく。マーレン大洋の上で魔法を習ったハッサンだが、彼はもともと精霊刀の継承者だった。主に風だけとはいえ、精霊とも仲が良い。バンことカツラギ・バンサイの場合は違う。彼には精霊がまったく見えない。今から教えても、覚えることは出来ないだろう。


「家主の魔法なら、なんとかなるかも知れねぇのにな」

「何だい、そりゃあ」


バンは不服そうに呟く。壊れた道具の犠牲者なのだ。責められた気がして不満なのである。


「悪ぃ、責めてるわけじゃねぇよ」


オルデンが慌てて弁解する。


「カーラが連れてきてくれたんだから、やっぱり、ここには何かあるはずだぜ!」


 雰囲気が悪くなりかけたところで、ケニスが声を上げた。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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