123 デロンの工房を調べる
自信満々でこの遺跡の魔法錠を開けられるというカワナミに、オルデンが疑いの眼を向ける。
「この遺跡に来るの初めてなのに、魔法錠が開けられるなんて、本当かよ」
「何言ってるのさ?オルデン!水は何処にでもあるんだよ?ここの水に聞けば、扉の秘密も解るのさ!」
「すげぇな、カワナミ」
オルデンは感心した。カワナミはひとしきり笑い転げると、くるりと前回転して、月光に水飛沫を光らせた。それから、迷いなく虹色の道を奥へと進む。居合わせた人間と精霊は、ぞろぞろと後に従う。皆で、カーラのランタンが投げかける星の形をした虹色の光を辿る。
虹色の光が途切れる場所に到着すると、カワナミはリズミカルな足取りで砂を踏んでゆく。水でできた足が砂を洗い、敷石が現れる。足が触れる度にその場所が光り、最後には床が消えた。
「階段がある」
「階段ね」
子供たちが穴の中を覗き込む。
「崩れてねぇようだな」
カーラの灯りを頼りにオルデンが検分する。ハッサンとカツラギ・バンサイは黙って地下を見ていた。カーラのいた川底の遺跡と違って、ここの遺跡は誰でも地下に入れるようだ。精霊たちが気にせず階段を降りてゆく。
「砂がないわね」
「守られてんだな」
地下の空間には砂がなく、空気も綺麗だ。ランタンの投げる虹色に浮かび上がる部屋は、殆ど何もない場所だった。
「作業台かしら」
石を積んで作られた台が中央にある。壁沿いには棚があるが、何も載っていなかった。
「壊れてないのね」
「汚れてもない」
カーラとケニスは、並んで部屋を見て回る。
「魔法がかかってるんだな」
「何もねぇのに?」
オルデンが棚や台の状態を確かめると、ハッサンが疑問を投げかける。
「デロンは魔法で加工したからな」
砂のトカゲが台の傍に立って言った。この精霊は、デロンの時代からいるのである。
「ここにデロンがいたのね」
「そうさ。この町で生まれて、最初は鍛冶屋の小僧だったんだが、いつのまにか魔法で不思議な道具を作り出してな」
砂のトカゲは、デロンが子供の頃から知っているようだ。
「デロンの籠は売り物じゃねぇから、ちょっとした日用品を加工したり直したりして暮らしてたんだ」
「そんな暮らしをしてたのねぇ」
カーラは親のような存在であるデロンの話に興味深々である。ケニスも黙って聞いている。オルデンは、精霊の見えないカツラギ・バンサイに通訳している。
「ある時、隊商がやって来て、デロンはついて行っちまった」
この辺りの精霊たちは、デロンが戻る日を待っていた。デロンがいた頃の精霊たちは小さく不確かな者たちで、次々と消えていった。トカゲも待ちくたびれて眠ってしまったという。
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