122 虹色の星が示す道
オルデンに聞かれて、砂のトカゲは重々しく名前を告げた。
「トカゲだ」
「えっ」
オルデンは、狐に摘まれたような顔をする。
「聞き取れないのかい?」
カツラギ・バンサイには精霊が見えないので、状況を知りたがる。
「いや、トカゲと言われていたそうだ」
「見たまんまだな」
「そういえばハッサンも、沖風の精霊を鳥って呼んでるよね」
ケニスは驚くことなく受け入れた。
「あいつのは名前じゃねぇぜ?」
「トカゲは名前なの?」
ハッサンが否定したので、ケニスは砂のトカゲに確認する。
「呼ばれる時に使うのが名前じゃないのか?」
砂のトカゲは不思議そうに首を傾げる。
「そりゃまあ、そうなんだが」
オルデンが苦笑した。
「例えば、ここにいるケニーはガキだけどよ、ガキは名前じゃねぇ。ケニーが名前だ」
「ふうん?」
「カワナミは水の精霊だけど、名前はカワナミだ」
カワナミがまた、腹を抱えて笑う。
「アハハハッ、トカゲ面白いねぇ!名前が何だか知らないのぉー!」
「幻影半島の精霊には、名前がないの?」
カーラが聞いた。
「よくわからない」
砂のトカゲは、結局理解出来ていない。町中でヤラの仕事を手伝っている熱砂の精霊は、なんとなく分かっているようだ。
「名前を貰うと力が強くなるんだよ!」
カワナミが得意そうに透明な歯を剥き出した。
「へえ?」
「別にどっちでもいいな」
砂のトカゲはやはりボンヤリと答え、熱砂の蛇は興味がなさそうである。精霊大陸の精霊たちにも、名前を欲しがらない者もいる。
「ふうん?じゃあ、トカゲでいいわね」
カーラも、どうでも良さそうに口を尖らせた。
「いいよ」
砂のトカゲは頷いた。
「そしたらトカゲ、ちょっとこの道具を動かして、家主の登録を消してくれねぇかな?」
オルデンは話を戻す。トカゲは困った顔をした。
「いいけど、道具が壊れてるんじゃ、何が起こるかわかんねぇよ?」
「カーラ、どうだ?」
オルデンは、ここぞとばかりにカーラの意見を聞く。
「こっちから、幸せな気配がするわ」
カーラはランタンを遺跡の奥に向ける。屋根のある場所の床に、虹色の星が道をつくった。登録の話は有耶無耶になってしまった。
「魔法錠かな?」
虹色の道の先は、砂を被った床しか無い。ケニスは、カーラと出会った川底の遺跡を思い出す。あの遺跡は、町全体がカーラをイーリスの子孫に渡すだけの為に造られていた。町は既に崩れ去り川砂に呑まれていたが、ケニスがカーラを手にするまで、魔法で幻が残っていたのだ。
その遺跡には魔法でだけ開く錠があり、扉はカーラがいた地下を隠していた。その時はカワナミが敷石を順番に踏んで光らせていた。
「カワナミ、開け方解る?」
「アハハ!ケニー、解るよ!」
「えっ?カワナミ、ここの精霊じゃねぇだろ」
お読みくださりありがとうございます
続きます




