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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第三章 幻影半島
122/311

122 虹色の星が示す道

 オルデンに聞かれて、砂のトカゲは重々しく名前を告げた。


「トカゲだ」

「えっ」


 オルデンは、狐に摘まれたような顔をする。


「聞き取れないのかい?」


 カツラギ・バンサイには精霊が見えないので、状況を知りたがる。


「いや、トカゲと言われていたそうだ」

「見たまんまだな」

「そういえばハッサンも、沖風の精霊を鳥って呼んでるよね」


 ケニスは驚くことなく受け入れた。



「あいつのは名前じゃねぇぜ?」

「トカゲは名前なの?」


 ハッサンが否定したので、ケニスは砂のトカゲに確認する。


「呼ばれる時に使うのが名前じゃないのか?」


 砂のトカゲは不思議そうに首を傾げる。


「そりゃまあ、そうなんだが」


 オルデンが苦笑した。


「例えば、ここにいるケニーはガキだけどよ、ガキは名前じゃねぇ。ケニーが名前だ」

「ふうん?」

「カワナミは水の精霊だけど、名前はカワナミだ」


 カワナミがまた、腹を抱えて笑う。


「アハハハッ、トカゲ面白いねぇ!名前が何だか知らないのぉー!」

「幻影半島の精霊には、名前がないの?」


 カーラが聞いた。


「よくわからない」



 砂のトカゲは、結局理解出来ていない。町中でヤラの仕事を手伝っている熱砂の精霊は、なんとなく分かっているようだ。


「名前を貰うと力が強くなるんだよ!」


 カワナミが得意そうに透明な歯を剥き出した。


「へえ?」

「別にどっちでもいいな」


 砂のトカゲはやはりボンヤリと答え、熱砂の蛇は興味がなさそうである。精霊大陸の精霊たちにも、名前を欲しがらない者もいる。


「ふうん?じゃあ、トカゲでいいわね」


 カーラも、どうでも良さそうに口を尖らせた。


「いいよ」


 砂のトカゲは頷いた。



「そしたらトカゲ、ちょっとこの道具を動かして、家主の登録を消してくれねぇかな?」


 オルデンは話を戻す。トカゲは困った顔をした。


「いいけど、道具が壊れてるんじゃ、何が起こるかわかんねぇよ?」

「カーラ、どうだ?」


 オルデンは、ここぞとばかりにカーラの意見を聞く。


「こっちから、幸せな気配がするわ」


 カーラはランタンを遺跡の奥に向ける。屋根のある場所の床に、虹色の星が道をつくった。登録の話は有耶無耶になってしまった。


「魔法錠かな?」



 虹色の道の先は、砂を被った床しか無い。ケニスは、カーラと出会った川底の遺跡を思い出す。あの遺跡は、町全体がカーラをイーリスの子孫に渡すだけの為に造られていた。町は既に崩れ去り川砂に呑まれていたが、ケニスがカーラを手にするまで、魔法で幻が残っていたのだ。


 その遺跡には魔法でだけ開く錠があり、扉はカーラがいた地下を隠していた。その時はカワナミが敷石を順番に踏んで光らせていた。


「カワナミ、開け方解る?」

「アハハ!ケニー、解るよ!」

「えっ?カワナミ、ここの精霊じゃねぇだろ」



お読みくださりありがとうございます

続きます

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