120 魔法の鍵
砂のトカゲは仏頂面をしてオルデンの前に立っている。半分崩れた遺跡の屋根から、砂漠の月が冷え冷えとした光を降らせていた。
「この籠なんだが」
オルデンは単刀直入に切り出す。
「何に使ってたんだ?」
砂のトカゲは透かし細工の鉄球を見る。
「鍵だ」
「鍵?何の?」
オルデンが続けて尋ねる。
「ここにあった工房のさ」
どうやら、旅人が出られなくなっていたのは、遺跡全体ではなくこの屋根の下にあった部分だけのようだ。
「けど、俺たち入れたよ?」
ケニスが当然の疑問を口にする。石組の精霊が、足をぶらぶらさせながら答えた。
「蛇が勝手に開けたんだろ。弱い魔法しか残ってねぇしな」
今では砂のトカゲが力を貸すわけでもなく、道具としても壊れている。魔法が半端な形で残されていただけだった。それでも、全く魔法が使えない旅人にとっては、充分な効果を発揮してしまったようだ。
「熱砂の蛇が鍵を開けたなら、こいつも出られるな」
「旅人さん、もう出られるみてぇだぜ」
「え、そいつぁありがてぇ」
トカゲの言葉をオルデンが通訳し、旅人が喜ぶ。しかし、石組の精霊が笑って否定する。
「ガハハ、そうはいかねぇのが壊れた道具よ」
「ダメなのか?」
砂のトカゲが不思議そうに問う。
「トカゲ、寝てたのか?見てなかったんだな?」
砂の蛇も馬鹿にする。
「何をだ?」
「こいつが可哀想だからよ、何度か鍵開けてやったさ」
「出ていかなかったのかよ?」
石組の精霊が説明すると、砂のトカゲが質問した。この道具に力を貸していたのは自分なのだ。詳しく聞かなくても、正常に動いていないことが分かる。
「出ようとしても何でか出られなくてな」
石組の精霊は詳しく語る。
「途中で思いついて道具を置いてこうとしたんだが、ダメだった」
「身につけてるかどうかは関係ない道具だからな」
「そうじゃねぇ」
「そうじゃねぇって、なんだ?」
トカゲは砂で出来た目を細める。
「道具が懐に飛び込んでた」
「ああ、そりゃ新しい家主として登録されちまったんだな」
トカゲは納得がいったというように腕を組んだ。それを聞いた熱砂の精霊が、蛇の眼を見開いて身を乗り出す。
「えっ魔法使えないのに?」
「壊れてるからな」
当事者なのに蚊帳の外だった旅人に、皆が一切に気の毒そうな視線を投げかけた。
「えっ、え?何でぇ?何だってんだ?」
旅の絵描きは4人の顔を見回した。
「魔法はひとつも使えねぇんだよな?」
オルデンが確認する。
「使えない」
旅人が頷く。
「この道具は、ここの屋根がある部分の鍵なんだがよ」
「鍵?」
「鍵って言っても、眼に見えるもんじゃなくてな」
「壁もねぇのにテーブルの辺りから離れられなかったのは、そのせいか」
「残念ながらそうみてぇだぜ」
オルデンがポンと旅人の肩に手を置いた。それから、ふと尋ねる。
「そういや、お前ぇ、名前あんのか?」
「こいつぁ失礼。カツラギ・バンサイってんだ」
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