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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第一章 国境の森
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12 ケニスは出自を聞かされる

 カーラはオルデンの質問に答えなかった。


「虹色の瞳の子にしか言わないっ。あっちいけっ」


 それを聞いてオルデンは顔色を変えた。


「ケニー、一旦外でるぞ」

「早くでてけっ」

「話がある」

「デン?」

「オルデン、話しちゃうんだ」


 カワナミは突然機嫌を直して笑い出した。オルデンの慌てようが面白かったらしい。


「ちょっと!虹色の瞳の子は残ってよ!」

「静かに待ってろ」


 オルデンはカーラにぴしゃりと言うと、ケニスの手を引いて扉の外に出た。



 オルデンはそのまま遺跡の地下から出る。川床に開いた四角い穴の側で、オルデンはケニスの両肩に手を置き、真っ直ぐに虹色の瞳を覗き込む。


「次にいつ川底の遺跡が現れるか解らない」

「そうだね」


 オルデンが真剣に話し始めると、ケニスも幼い顔を引き締めて頷く。


「だから、詳しくは後で話す」

「うん」

「ケニー、お前の髪も瞳も、そして額にある古代精霊文字も、ノルデネリエという国の王族である証だ」

「のるん?おーぞく?あかし?」


 ケニスはまだ5歳である。捨て子と言う状況から、オルデンはケニスが命を狙われたのだろうと推測した。自分の素性に関することは、知らない方が安全だろうと思った。そこでケニスを守る為に、森と精霊以外の一切を教えていなかった。



「ケニーは、ノルデネリエってとこの子なんだ」

「ケニー、焔の子だ!」


 ケニスは泣きそうになる。


「それはそうなんだがな。森の外にノルデネリエってとこがあってよ。そこで生まれたんだ」

「あ、なんだ、そっか」


 ケニスは安心する。


「それでな」

「うん」

「ノルデネリエにはずっと昔、精霊と人間の間に生まれた子がいてな」

「へえー」

「その人の子の、そのまた子供の、ずっとずっと後の子供がケニーなんだ」

「ええっ!ケニーは精霊の子供?」


 ケニーは驚く。


「ちょっとだけどな」

「ちょっと精霊、いっぱい人間?」

「そうだな」

「へえー!それがおーぞく?」

「まあだいたいそうだな。あとで詳しく話す」

「わかった」


 ケニーは素直に受け入れる。カワナミはつまらなそうに姿を消してしまった。


「証は、なにかを現すしるしみたいな意味だな」

「ん、解った」

「それで、カーラはそのノルデネリエの王族の為に生まれた精霊だと思う」

「虹色の瞳の子とだけ話すって言ってたね」

「やっぱりケニーは賢いなあ」


 オルデンはニッと笑う。


「ケニー」

「なに?」

「カーラの話を聞いたら、すっげぇ危ねぇことが起きるかもしんねぇ」

「えっ、そうなの?」


 ケニーは青褪める。オルデンはゆっくりと頷いた。太陽は相変わらず金色の網目をケニスに投げかける。ケニスの髪の毛は、速い流れに乗って水草のように揺れていた。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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