119 デロンを知っている精霊
オルデンは慎重に発言する。
「それは、親から引き継いだのか?」
「いや?」
デロンが東の果てまで旅したわけではないようだ。
「どこで手に入れたんだ?」
「この遺跡で拾ったんだよ」
オルデンは拍子抜けして、声が裏返る。
「ここで?」
「そうさ。でもよ、コイツを拾ってから、この遺跡から出られなくなっちまってさ」
一同はえっ、と息を呑む。
「そろそろ3日目だ」
「3日も?」
「もうそろそろ食糧も尽きるし、水だって無くなる」
「喉乾いたの?」
ケニスは急いで水の球を作った。
「えっ、坊や、凄いね」
「お兄さん、魔法見たことない?」
「いや、あるにはあるが、坊やみたいな子供が使うのは初めて見た」
「そうなの?」
ケニスは、照れ臭そうに目をパチパチとしばたたく。
「壊れてるとは言え、まだ魔法が残ってる籠は初めて見たぜ」
オルデンは、驚嘆の眼差しを金属球に向ける。
「それで、何に使う道具なんだよ?」
旅人は苛立ちを見せて再度質問する。
「精霊は今、籠の中にはいないわね」
「そうだな。道具に元々こめられた魔法だけみてぇだ」
「ねえ、これに力を貸してた精霊を呼んでみる?」
「そうよ!そうしましょう。そしたら解るわよ」
「それも手だな」
子供たちの提案に、オルデンは同意する。
「危なくは無さそうな道具だし、呼んでみるか」
「出来るのかい?」
「まあ、やってみるさ」
旅人の絵描きが半信半疑で金属の球を差し出す。精霊たちは浮かんだり、肩や箱の上に乗ったりと思い思いの場所で見学している。石組の精霊は、大きいテーブルのような石の台にちょんと腰掛けて眺めていた。
オルデンは籠状の金属球を無造作に受け取ると、気軽な調子で精霊に呼びかけた。
「これに力を貸してた精霊、ちょっと来てくれ」
ハッサンと旅人は、そのあまりにもカジュアルな呼びかけに仰天した。もう少し何か、儀式めいた手順があるのかと思っていたのだ。
石を並べた床の隙間から、砂がさらさらと溢れ出す。四方から集まった砂は、トカゲの形を作り上げる。後足2本で立ち上がると、砂のトカゲはケニスと同じくらいの背丈になった。
「来た」
砂のトカゲがぶっきらぼうに太い声を出す。カワナミはゲラゲラ笑う。石組の精霊は台に腰掛けたまま手を振った。トカゲは砂でできた鱗で覆われた太い腕を伸ばす。そのまま無言でオルデンの額に触れた。オルデンの額が金色に光る。
ひとり何が起こっているのか全く分からない旅人に、オルデンが説明する。
「この道具に力を貸してた精霊が来たぜ。まだ消えずにここに居たみてぇだ」
「消えることもあんのかい」
「ある」
「で、何だって?」
「そいつはこれから聞くよ」
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