115 大岩で出来た台
一行が階段を降り切ると、砂の溜まった平らな場所に到着した。傾き始めた月は、青白い筋となって辺りを照らしている。向こうにいくつか柱が見える。半分折れたもの、まだ立っているもの、横たわるもの。
「屋根が見えるわ」
「行ってみようよ」
「そうだな」
階段を降りたところで止まっていた熱砂の精霊は、またハッサンの肩へと収まった。枯草の精霊も、顔を覆う布から這い出てオルデンの肩に座る。砂漠を渡る夜風の精霊は、ハッサンの周りをそよそよと巡っていた。
一行は、屋根が残る場所へと向かう。近づくと、崩れた台のような物が見えた。大きな一枚岩が、しっかりと組み上げた石の脚に支えられて青白く光っている。
「大きいねぇ」
ケニスが感嘆の息をはいた。
「デンが大の字になっても余るよ」
好奇心をあらわにした4人が、台に沿って回ってゆく。精霊たちが時折額に触れて祝福を与える。上機嫌らしく、何度となく挨拶をしてくるのだ。その度にそれぞれの色で額が光る。オルデンはちょっと煩そうに眉を下げた。ハッサンは光るたびに驚いて、カワナミがいちいち笑い転げた。
「あっ」
ケニスが台の脚の陰に顔を向けて、小さく声を上げる。
「この人よ」
カーラがケニスにぴたりと寄って囁く。
「呑気に寝てんな」
オルデンが呟く。
「精霊も魔法もないのに、よくこんなとこで寝てるねぇ」
カワナミは相変わらずの大笑いだ。しかし、カワナミの言う通り、寝ている人には聞こえない。大岩の台を支える脚に寄りかかり、何枚もの毛布を巻きつけてぐっすりと寝ている。傍には肩紐のついた木の背負子が置かれている。
「よく凍死しないねぇ!ハハハハ」
「この人、なんで蠍も寄って来ないんだろ」
カワナミが面白がり、枯草の精霊が疑問を口にする。
「砂も積もってない」
熱砂の精霊はにょろにょろと這い回って確かめる。夜風の精霊がしっかりと巻きつけた毛布の間に入り込んだ。
「こら、やめろ」
ハッサンが慌てて止める。お構いなしの精霊は、やがて毛布から顔を出すと、旅人の秘密を告げた。
「この人、遠い国の精霊からお守りを貰ったみたい」
「え、精霊」
顔は布に覆われて、目も瞑っている。長く黒いまつ毛が月の光を浴びている。ひとりの精霊も連れていないのに、精霊からのお守りを持つと言う。
「幻影半島じゃ見かけねぇ背負子だな」
「精霊大陸にもないぜ」
大人たちの言葉に、子供たちと精霊が不安そうに寄り添った。カーラは、この人物がケニスの幸せに関わると信じている。だが、未知の存在への警戒も沸き起こるのだ。
「オルデン、ランタン点けていいかしら?」
カーラは生まれて初めて、デロンの籠であるランタンを自らの意思で使おうとしている。藍色の金属が砂漠の月を反射する。布から覗くカーラの目には、虹色の光が灯っていた。
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