114 幻影砂漠の遺跡に入る
オルデンは半分埋まっている遺跡を見上げる。四角い壁が組み合わさった単純な作りだ。壁をよく見れば、ぎっしりと石が積み上げられている。
「こっから入れる」
ハッサンの肩に乗っていた熱砂の蛇が、壁に開いた四角い穴に飛び降りる。オルデンは思わずカーラを見た。カーラはイーリスの子供たちの導き手である。邪悪な者たちが作り上げてきたノルデネリエを正しい国へと変える希望だ。
「ケニーの助けになる人が、中にいるわ」
「中に?正気か?」
カーラの言葉にハッサンが叫ぶ。青い垂れ目が大きく見開かれ、月明かりを宿して揺れる。結婚目前のパリサがいたら、さぞうっとりと見惚れたことだろう。
「いるわ」
「少なくとも、人が居られる空間があるってこった」
オルデンは頷くと、四つん這いになれば大人も倒れる四角い穴を通る。怯まず続く子供たちも穴に消える。
「あー、もう。仕方ねぇな」
ハッサンは観念して穴の縁に手を掛ける。その腰ではサダが愉快そうに点滅した。
「何だよ、サダ」
ハッサンは口を覆う布の下で口をへの字に曲げる。
穴の向こうには石造りの床があった。月光が射し込んでほんのりと明るい。天井は元からないのか壊れたのか、頭上には砂漠の星が瞬いていた。
熱砂の蛇の案内で、壁に挟まれた細長い通路を進むと、壁の途中に階段があった。大人が肩車をして2人分くらいの高さがある。今歩いてきた回廊は見張り台の通路だったのだろう。精霊たちの悪戯で、ハッサンは足元の砂に足を取られそうになる。
「おい、なんで俺だけ揶揄うんだよ」
「面白いからじゃないの?」
現れたり消えたりしながら着いてきたカワナミが、ゲラゲラと笑う。すっかりハッサンが気に入ったようだ。
「階段はやめろよ?下が見えないくらい高いからな?」
「ハッサン、風のひとじゃない?大丈夫だよ!」
カワナミがお腹を抱えて笑い続ける。ケニスは振り返って、ちょんとカワナミの腕をつついた。
「危ないのはダメだぜ」
「ハハ!ケニー、お兄さんぽいね!」
カワナミは益々喜んで、クルクルと回った。飛沫が四方に飛び散った。風は砂も混ぜてくる。カーラが苛立って虹色の火の粉を飛ばす。枯草の精霊は、オルデンの被った布の中に急いで潜り込む。
「お前ぇら、落ちんなよ」
オルデンが呆れて注意する。
「ほら、怒られたじゃないの」
「カーラだって火の粉飛ばしたろ!」
「カーラ、段々の高さはバラバラだよ」
カーラと風の精霊はまだ揉めている。ケニスはカーラの手をとって、一段先を降りながら気遣った。
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