113 デロンの故郷
「そっちはまた、珍しいお仲間だねぇ」
夜風の精霊は、オルデン、ケニス、カーラの順に触れてゆく。
「嬢ちゃんは変わった精霊だな」
「なによ、失礼な精霊ね」
「ごめんよ」
「ふん、あたし、海だって渡ったんだから」
「そいつぁ豪気だねぇ」
こうして、砂漠の夜風から生まれた精霊とも仲良くなった。精霊は少ないが、精霊が見える人間はもっと少ない。人見知りをする精霊もいるが、大抵は嬉しがって寄ってくる。
「おっ、なんかあるぞ」
ケニスの肩にくっついてきた枯草の精霊が声を上げた。ヒョロヒョロの手が指し示す先には、確かに何かが見えている。月明かりの砂海原から、灰白色の四角いものが突き出していた。
「遺跡だ」
熱砂の精霊が言った。
「へー?こんな近くに遺跡なんかあったんだな」
ハッサンが間抜けな声を出す。
「ずっと埋まってたからな」
「ふうん、今夜ひょっこり出てきたのか」
「砂漠ではよくあることさ」
熱砂の精霊は、ハッサンの肩でゆらゆらしながら言った。
「またすぐ砂に埋まっちゃうの?」
ケニスが不思議そうに聞く。
「だいぶ出てきてるから、どうだろうな」
砂の蛇が目を細めた。
「場合によっちゃ、数時間でまた見えなくなるけどな」
「中に住めるかな」
「いや、砂だらけだろ」
ケニスの無邪気な発言に、ハッサンはギョッとする。
「町からも近いし、住めるようにするか」
オルデンの提案には、足を止めて言葉を失った。
「わけもねぇよ」
オルデンは目だけでニッと笑う。覆われた口元も、布の下では笑っているに違いない。
「魔法使いってのは、てぇしたもんだねぇ」
ハッサンはつくづく感心して、また足を動かし始めた。
「けっこう遠いのね」
「遮るもんが無いからな。近そうに見えてもだいぶ先だぜ」
カーラの不満に、熱砂の精霊が諭すように答えた。
「それにしたって、夜明け前には到着できるがな」
子供たちには、もう遠いのか近いのか分からなくなってしまった。黙り込んだ2人の背中に、オルデンは優しく手を当てた。2人は布で覆われたオルデンの顔を見上げた。オルデンは揶揄うように茶色の瞳を煌めかせた。
「速くするか?」
「うんっ!デン、速くしよう」
「そうね。速くしましょう」
「おい、ちょっとまて」
焦るハッサンを尻目に、3人の魔法と精霊たちの手助けで一行は疾風のごとく月下の砂丘を走り抜ける。
「おわぁ」
3人が巻き起こす風で、砂が顔に当たり、目にも入る。ハッサンは思わず目を瞑った。
「ハッサン、面白いねぇ」
カワナミが現れてゲラゲラと笑う。透明なカワナミの飛沫に青白い月の雫が混ざり合って、砂漠の夜を映した。
「うるせぇや」
子供たちも笑い声をあげ、オルデンは苦笑いを浮かべた。そうやってふざけているうちに、一行はあっという間に半分砂に埋まった遺跡まで来てしまった。
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