110 幻影砂漠の遺跡
10歳の少年に魔法使いの常識を教えられて、ハッサンは決まり悪そうに口元をニヤつかせた。
「なんだ、そうなのか」
「そうよ」
カーラはフフンと顎を反らす。
「けど、食べ物は?」
それには熱砂の精霊が答えた。
「砂雀がいるし、蛇もいる」
「へー」
「遺跡に行くなら、もう動いたほうがいい」
熱砂の精霊が助言する。
「蠍が出るんじゃないの?」
ヤラの不安にも熱砂の精霊が返事をする。
「出るけど、こいつらなら関係ないだろ」
「人目が無けりゃ魔法も使えるしな」
「それなら、大丈夫かもなあ」
ハッサンはとうとう折れた。ヤラは感心してため息をついた。
「ハッサン、一緒に来て精霊剣術を教えてくれるよね」
ケニスは期待を込めてハッサンを見上げる。
「砂漠でか?」
「うん。俺たち今日から砂漠で住むよ」
「はっ?えっ?」
ハッサンは、オルデンたちが砂漠に行くのはせいぜい数日かと思ったのだ。オルデンと熱砂の精霊が話している内容は、それくらい気軽な感じに聞こえた。
「町じゃ人目が多くて精霊剣術の練習出来ないだろ」
「そりゃまあ確かに、時間も取れねぇしな」
その点はハッサンも認める。
「仕事どうすんのよ」
ヤラが厳しく指摘する。
「日雇いだから、行かなきゃそれで終いだな」
「え?兄ちゃんは店勤めじゃないの?」
「いや?用心棒も日払いだよ」
アルムヒートの生活は厳しかった。
「船を降ろされちまったけど、半年経ったら師匠とラヒムも戻るしよ」
「へっ?兄ちゃん何言ってんの。半年もあるんだよ?」
「半年だけの仕事なんざ、むしろねぇよ」
「あたしの荷運び頼りで、後は運まかせだったの?」
日雇いなら、行ってみて要らないと言われる可能性も高いのだ。まさしくその日暮らし。
「父ちゃんが残してくれたこの家だって、借りてるんだし」
「家賃は何とかならぁな」
「何とかって!日雇いじゃ、食べるだけで終わりじゃないの」
アルムヒートの賃金は安い。人々は元気だが、貧乏である。
「オルデンたちが魚や海藻を取ってくれなかったら、飢えてたかもな」
「ええっ、そこまで安かったの?」
アルムヒートでは海藻を食べる習慣がない。燃料にも使わない。浜辺に打ち上げられても、放置されている。だがハッサンは海を渡るときに食べたのだ。オルデンたちも森にいたので初めて食べた。精霊に教わって試してみたら、4人とも気に入ったのである。今ではヤラも美味しく食べている。
「泥棒だのイチャモン客だのがくりゃあ、手当はつくけどな」
「しょっちゅう来るの?」
「うちの店は用心棒の質にこだわってるから、滅多な奴はよりつかねぇ」
「こだわってるのに賃金安いの?」
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