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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第三章 幻影半島
110/311

110 幻影砂漠の遺跡

 10歳の少年に魔法使いの常識を教えられて、ハッサンは決まり悪そうに口元をニヤつかせた。


「なんだ、そうなのか」

「そうよ」


 カーラはフフンと顎を反らす。


「けど、食べ物は?」


 それには熱砂の精霊が答えた。


砂雀(すなすずめ)がいるし、蛇もいる」

「へー」

「遺跡に行くなら、もう動いたほうがいい」


 熱砂の精霊が助言する。


「蠍が出るんじゃないの?」


 ヤラの不安にも熱砂の精霊が返事をする。


「出るけど、こいつらなら関係ないだろ」

「人目が無けりゃ魔法も使えるしな」

「それなら、大丈夫かもなあ」


 ハッサンはとうとう折れた。ヤラは感心してため息をついた。



「ハッサン、一緒に来て精霊剣術を教えてくれるよね」


 ケニスは期待を込めてハッサンを見上げる。


「砂漠でか?」

「うん。俺たち今日から砂漠で住むよ」

「はっ?えっ?」


 ハッサンは、オルデンたちが砂漠に行くのはせいぜい数日かと思ったのだ。オルデンと熱砂の精霊が話している内容は、それくらい気軽な感じに聞こえた。


「町じゃ人目が多くて精霊剣術の練習出来ないだろ」

「そりゃまあ確かに、時間も取れねぇしな」


 その点はハッサンも認める。


「仕事どうすんのよ」


 ヤラが厳しく指摘する。


「日雇いだから、行かなきゃそれで終いだな」

「え?兄ちゃんは店勤めじゃないの?」

「いや?用心棒も日払いだよ」


 アルムヒートの生活は厳しかった。



「船を降ろされちまったけど、半年経ったら師匠とラヒムも戻るしよ」

「へっ?兄ちゃん何言ってんの。半年もあるんだよ?」

「半年だけの仕事なんざ、むしろねぇよ」

「あたしの荷運び頼りで、後は運まかせだったの?」


 日雇いなら、行ってみて要らないと言われる可能性も高いのだ。まさしくその日暮らし。


「父ちゃんが残してくれたこの家だって、借りてるんだし」

「家賃は何とかならぁな」

「何とかって!日雇いじゃ、食べるだけで終わりじゃないの」


 アルムヒートの賃金は安い。人々は元気だが、貧乏である。


「オルデンたちが魚や海藻を取ってくれなかったら、飢えてたかもな」

「ええっ、そこまで安かったの?」


 アルムヒートでは海藻を食べる習慣がない。燃料にも使わない。浜辺に打ち上げられても、放置されている。だがハッサンは海を渡るときに食べたのだ。オルデンたちも森にいたので初めて食べた。精霊に教わって試してみたら、4人とも気に入ったのである。今ではヤラも美味しく食べている。



「泥棒だのイチャモン客だのがくりゃあ、手当はつくけどな」

「しょっちゅう来るの?」

「うちの店は用心棒の質にこだわってるから、滅多な奴はよりつかねぇ」

「こだわってるのに賃金安いの?」


お読みくださりありがとうございます

続きます

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