109 砂漠の夜へ
オルデンの一声で、ケニスとカーラが立ち上がる。
「ちょっと待てよ。砂漠に何しに行くんだよ?」
ハッサンが慌ててやめさせようとする。
「デロンの故郷だって言うからな」
「幻影砂漠が?」
「そうだ。正確な場所は知らねぇんだが、海の精霊たちが噂してたぜ」
「デロンの故郷に行くのね!」
カーラが興奮する。カーラはデロンによって生み出された契約精霊なのである。デロンのことは大好きなのだ。カーラのランタンを作り、イーリスの最期を見届けたデロン。その故郷は、精霊大陸では知られていなかった。オルデンは海の上での噂話を聞いていてくれたのだ。
「蛇、デロンは知ってるか?」
「いや、知らない」
「幻影砂漠に契約精霊はいるか?」
「聞いたことねぇ」
「デロンの籠って知ってるか?」
「いや。なんだ?」
「昔、デロンていう職人がいて、精霊に借りた力を道具に閉じ込めたんだ」
オルデンの説明に、集まっていたアルムヒートの精霊たちは震え上がった。
「何そのひと」
「精霊の力を閉じ込めるなんて」
「お礼もしたし、約束ごとを決めて力を借りたんだよ」
精霊は納得出来ない様子で、こしょこしょと囁き合う。
「精霊の力と道具の力が混ざり合って、契約精霊が生まれるんだ」
「デロンしか作れない凄い道具なんだから!」
カーラが胸を張る。
「遺跡の奴らなら知ってるかもな」
「そんじゃ、その遺跡に行ってみようぜ」
「わかった。付いてきな」
砂の蛇はするするとテーブルの脚を伝って床に下りる。ハッサンが慌ててガタンと椅子を鳴らす。
「おいおい、やめとけって。砂漠に行くなら水や食べ物を用意しねぇと」
「俺たちなら必要ねぇぜ?」
「オルデン、海とは違うんだよ」
「人目があんのか?」
「そうじゃねぇよ。隊商のルートを外れりゃ人気はねぇけど」
「けど、何だ」
ハッサンは必死に思いとどまらせようとする。
「水も食べられる生き物や植物も、砂漠にゃ殆どねぇんだよ」
オルデンは、黙って魔法を使って木のコップを作る。中には水が入っていた。
「えっ?」
「海でも陸でも関係ねぇよ」
驚くハッサンにオルデンが静かに言うと、カワナミは得意そうに高笑いをした。
「ウハハハハハハ!水は何処にでもあるんだよ!」
「空気から取り出せるからね!」
ケニスも胸を張って付け加える。
「海でもそうやってたのか」
「そうだよっ!人間は海の水飲んだらおかしくなるから!」
カワナミがゲラゲラ笑う。
「いや、それは知ってるが」
ハッサンは船の護衛をしているので、海のことはある程度知っている。だが、ハッサンの返事を聞いてオルデンが不思議そうに眉を下げる。
「じゃあ、どうやってると思ってたんだ?」
「海水を魔法で真水に変えてると思った」
「それも出来るけどな」
「精霊に頼んで空気から集めるほうが早いよ」
ケニスが当然だ、と言うように断言した。
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