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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第三章 幻影半島
105/311

105 熱砂の精霊

 半開きの扉の外で、オルデンとカワナミが食器を洗っている。ケニスはその様子を見て、ヤラに水の精霊と交流があるかを聞いてみた。


「見えるのは熱砂の精霊だけよ」

「そっかあ」

「水の精霊と仲良ければ、洗い物もお料理も楽ちんなのに」


 カーラも話に加わった。


「そうよねぇ。兄ちゃんも風だけだし、そんなに便利じゃないかもね」


 ヤラが朗らかに笑うと、足元から砂埃が舞い上がった。


「あっ、こら、ごめんて。デザートに砂が入るからやめて」


 ケニスとハッサンは慌ててデザートの器を手で覆う。カーラは熱砂の精霊に気を取られて、自分のデザートは見ていなかった。


「カーラ、砂が入っちゃう」


 ケニスは空いている手で、カーラの器も覆った。


「ありがとう、ケニー」


 はっと振り返って、カーラが薄く頬を染めた。



 本来ならデロンの籠に住む、契約精霊であるカーラ。古代の職人デロンが作った魔法の道具に、契約によって精霊が力の一部を貸し出す。道具の使用目的と精霊の力が合わさって、使用効果が格段に上がるのだ。


 契約精霊は、道具の効果と精霊の力が混ざり合って出来た存在である。契約が終わったら本体に戻るので消えてしまう。道具が壊れても同じだ。その時には、力の一部を失った本体が暴走するので危険である。


 オルデンたちが暮らしていた国境の森では、滝壺の精霊がデロンに力を貸したことがある。扇のような道具に、夏の間だけ力の一部を閉じ込めた。その道具で仰ぐと霧が発生して涼しいのである。


 カーラは特殊な個体だ。本体であるイーリスが消滅してしまったので、本体の役割も残している。契約精霊が消えると本体が暴走するのに、本体が消えたら、契約精霊が謂わば子供のような立ち位置で残った。


 カーラは道具から飛び出して顕現まで出来る。それでも、生まれた理由以外には通常興味を示さない。



「カーラ、熱砂の精霊、気になる?」

「ええ。あの子は『イーリスの子供たちが幸せになるほう』にいるわ」

「ほんと?お話した方がいいかな」

「そうね。後で話を聞いてみましょうよ」

「うん。デンが戻ったら相談しよう」


 小声で相談するうちに、オルデンが戻ってきた。カワナミもオルデンの周りをうろうろしている。風や火の精霊にも協力して貰い、食器は乾かされて棚に収まった。


「なんだ?ケニー、何か言いたそうだな」

「うん。ヤラの友達に熱砂の精霊ってひとがいてさ」

「イーリスの子供たちを幸せにする鍵みたいなの」



 オルデンが口を開く前に、床に落ちていた砂が蛇の形をとって鎌首をもたげた。掃除済みの部屋である。砂は少なく、蛇の姿は細いミミズ程度であった。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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