104 人とは違う存在
魚と共に煮込んだイワヤマキュウリやサバクナスを呑み込むと、ハッサンは話を続けた。オルデンと子供たちも食事を進めながら話を聞く。ケニスとカーラには少し味が刺激的だったようだ。しばしばフォークを置いては大人用のコップを両手で支えて、ゆっくりと水を飲んでいた。
「助かった数人がサダを届けてくれたんだがよ」
「うん、なんかあったのか?」
「そいつらも悪鬼が居なくなってからサダを拾ったんだと」
「何があったかは見てねぇのか」
「ああ。でも、サダのお陰で全滅せずに遺体を町に戻せたって感謝されたぜ」
「サダの限界だったのか」
オルデンはぐっと眉を寄せる。
「違うよ!」
ケニスが叫んだ。ヴォーラ経由でサダの思いを聞いたのだ。使い手が力尽きては、精霊刀に宿る幸運の力も充分に発揮されないのだと。
「力を引き出せる人が居なくなったんだよ!」
「ありがとな、ケニー。ようやく腑に落ちた」
ハッサンがケニスの頭をくしゃりと撫でる。ハッサンはサダの名誉が守られて嬉しそうだ。
ハッサンは改めてオルデンに向き直る。寂しそうに口元を歪めてふっと笑うと、軽い調子で説明した。
「オルデン、父ちゃんは悪鬼に生命力を吸われちまって、サダの力を出しきれなかったのさ」
代々受け継がれてきたとは言え、精霊との結びつきが薄い国である。サダの持ち主も、ハッサンのように精霊が見える者ばかりではない。
「父ちゃん、精霊の声は聞こえなかったからなあ」
「そいつぁ」
オルデンが言葉を呑み込む。ヴォーラと同じだ。幸運の剣や刀は、遣い手の幸運を吸い取り、それを使い果たすと今度は生命力を吸い取って、幸運の力に換えるのだ。しまいには、全てを吸い取られた遣い手が死を迎える。
ハッサンは精霊刀と気持ちを合わせるコツは知っている。幸運をどうやって使うかも分かっている。ケニスに動きを指南しながら、少しずつその点も教えてくれていた。
だが、どうやらサダは隠しているのだ。精霊が見えない者や魔法の才能を持たない者が、精霊刀や精霊剣を使うとどうなってしまうのかを。
ヤラは黙って席を立ち、デザートを持ってきた。カーラとケニスが慌てて手伝う。オルデンは空いている皿を下げる。この町では、素焼きの鉢に溜めた水を使って、家の裏手で食器を洗う。真水が流れる川が遠くて、今までヤラとハッサンは水汲みに苦労していた。
オルデンが皿を素焼きの鉢に入れると、カワナミがやってきて皿洗いを手伝ってくれた。カワナミにとっては遊びなので、特にお礼はいらない。強いて言えば、オルデンに遊んでもらうこと自体がカワナミにとってはお礼である。
「ヤラ、水の精霊は見える?」
デザートを配り終えて座ったヤラにケニーが声をかける。
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続きます




