103 幸運刀サダの力を使うには
カルドゥン帝国は軍政国家だが、征服地域の一般市民には善政を敷いた。新政権の宮殿で下働きに雇ったりもしてくれるという。ハッサンの父母は、父が滞在中に仲良くなった。
「占領地域の原住国民が帝国領から出るには、ふたつ方法があるんだ」
「ふたつ?どんな方法なんだ?」
ケニスが好奇心剥き出しに質問した。
元いた地域内で暮らす分には、平穏な市民生活が出来る。しかし、征服地域の原住国民がカルドゥン帝国領外へ出るには、無理難題をクリアしなければならなかった。
「俺たち庶民が生涯かけても払えねぇような大金を払うか、」
ケニスとカーラがごくりと唾を呑みこむ。ハッサンはニタリと笑う。
「王様に言われた物を持ってくるか、だ」
「ええっ、どっちも難しそうだよ?」
「父ちゃんはサダの前の持ち主だぜ?」
「幸運の精霊刀だよね?」
「そういうこった」
ハッサンの父は、幸運の精霊サダに力を借りた。無事王の求める珍しい宝玉を献上した。そんな偉業を成し遂げた者なのだから、帝国が留め置こうとしても不思議ではない。だが、自分とサダとハッサンたちの母が捕まることもなくカルドゥン帝国を出た。そこにもサダの力を使ったのである。
そうして、ハッサンたち兄妹の父は、アルムヒート港を擁するマァ王国まで母を連れ帰ったという。
「2人とも、もう死んじまったけどな」
「俺たちも親、いねぇよ」
テーブルの角を挟んで隣に座っていたケニスが、ハッサンの腕をヨシヨシとさする。ハッサンは優しく笑いかけるが、すぐに暗い声を漏らす。
「サダが付いてたのになぁ」
顔を曇らせるハッサンに、オルデンは何か引っかかる顔をした。
「何があったんだ?」
「荒地の悪鬼に隊商が襲われたらしい」
「荒地の悪鬼?」
オルデンには初めて聞く名前だ。怖そうな呼び名なので、人間に害をなす存在だろうとは想像できる。子供たちはひそひそと囁き交わしている。
「アルムヒート港の東側に、風荒原て広い荒地があるんだがな」
ハッサンは白身魚を香辛料で煮たものをつつく。辛い思い出を誤魔化すように、フォークで崩した魚を口に運ぶ。
「そこに巣食う、姿の見えない邪悪な存在さ」
「そんな物がいるのか」
「そうなんだ。やつらは時々現れて、生き物の命を枯らしてしまうのさ」
「避けられないのか」
「突然出てくるんだよ」
ケニスとカーラは、怖そうにきゅっと手を握り合う。
「船の修理に使う木を切り出しに行く連中が、たまに襲われちまうんだ」
「親父さんはその護衛についてったのか?」
「そうなんだ。サダの力をアテにした親方さんに頼まれてよ」
「よっぽど手強かったんだな?」
「それが、よくわかんねぇんだよ」
「なんで?」
ケニスが不思議そうに聞く。
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