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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第二章 森の外へ
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100 港町アルムヒート

 建物の裏手にある木の扉から、縮れた黒髪の女性が顔を出した。鮮やかな色合いの布を頭に巻いて、ゆったりとした服を着た年若い女性だ。


「パリサ!会いたかった」

「ちょっとハッサン?船の護衛じゃなかったの?」


 満面の笑みで抱きついてくるハッサンに、パリサは苦い顔をする。


「事情があんだよ。とにかく入れてくれよ」

「何よ、事情って」


 パリサは疑わしそうにハッサンを見る。


「ほらみんな。入ろうぜ」


 ハッサンが後ろにいるオルデンと子供たちに声をかけると、パリサはじろじろと観察しながらも道をあける。4人が扉の中に入ると、そこは狭い倉庫になっていた。倉庫の向こうに調理場が見える。



「夕飯時にはまだ早いけど、何しに来たのさ」

「パリサ、会いたくなかったの?」

「そりゃ会いたかったけど」

「だろー?」


 ハッサンはパリサに抱きついて、唇に軽く挨拶のキスをする。パリサは仕方がないという表情で受け流す。


「それより、そちらさんは?」

「あ、成り行きで剣を教えることになったケニーと」


 ハッサンはケニスの肩をぽんと叩く。ケニスはペコリと挨拶をした。パリサは浅く頷く。


「そのガールフレンドのカーラ」

「あらまあ、そうなの?」

「ふふっ」


 カーラは嬉しそうに笑った。ケニーは繋いでいた手を照れ臭そうに前後に振った。


「あとオルデンな」


 オルデンはぺこりとツルツルの頭を下げた。



「精霊大陸から来たからさ、知り合いもいねぇんだ」


 一行は調理場を抜けて、中閉め中の誰もいない店内に座る。


「へーえ」

「こっちで落ち着くまで、働かしちゃあくれねぇかな?」

「そんな余裕は」

「何かしら仕事見つけるまでさ、食堂手伝うかわりに飯食わしてやってよ」

「3人もじゃねぇ」

「寝床は俺んちでいいし、何日かでいいからさぁ」


 パリサは渋る。貧乏ではないが、見知らぬ異邦人に食事を恵むほど豊かでもない。



「自分でなんとかしてみるよ」


 パリサの困った様子を見て、オルデンが助け舟を出す。


「まずは町の様子を見に行きたいんだが」


 パリサの安堵を確かめてから、オルデンはハッサンに話してみた。


「うん、じゃあ町をみながら俺んち行くか」

「泊めてくれんのかい」

「おう。狭いけどな」

「ありがとう、ハッサン」

「お世話になるわね」

「ガキが遠慮すんな」


 ハッサンが明るく笑うと、パリサがその頬にキスをした。


「ハッサン、かっこいいよ」

「へへっ」


 ハッサンはパリサのほうへと身を屈めてまたキスをした。



 早々に屋外へ戻る。ごちゃごちゃとした表通りには、山盛りのパンを乗せた籠を頭上に持ち上げている人や、木の桶に食べ物を詰めて運ぶ人が歩いている。立ち並ぶ店や露天商では、買い物客が品物を選んでいた。裸足の子供たちが大人の間をすり抜けてゆく。犬や猫はその足元を縫って走る。


「この辺は町の端っこだからな。港の方へ行ってみようぜ」

「港なら荷運びや掃除の仕事がありそうだな」

「運がよけりゃな」

「とにかく行ってみるさ」

「ついてきなよ」

「うん、お願い」

「楽しみだわ」


 ケニスとカーラは森から出たばかりなのに、もう人混みに順応した。ぶつかることなく、すいすいと人の間を泳ぎ渡っていた。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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