イボ
彼女は久野沙良、十四歳。特に記述するような話題性はない平凡な中二女子。でも最近、沙良の身に気になる事象が起きていた。
「ぎゃっ、めっちゃ増えてる」沙良は洗面所の鏡の前で悲痛な声をあげる。
同時に姉の星羅が二階から怒鳴りながら降りてきた。
「もうー、沙良! また私のパック使ったでしょ! 枚数減ってるし。ガキが使うのは十年早いんだよ」
「二つしか離れてないじゃん! それより見てよ星羅、また増えてる」
「え?!」星羅は沙良の胸を見て驚いた。
「うわぁぁ! それヤバくね?」
「うーん……」
それは一週間前、ちょうど終業式の日だった。沙良の貧乳にポチッと五ミリ位の大きさのイボのようなものが出来た。最初はブラで擦れてとか、汗でかぶれたのか、またはニキビか湿疹のようなものだと思っていたのだが、赤くもならず、痒くも痛くもないので放っておいたら、二、三日前から急に数が増えて、今朝は何と十個位もできていた。
「病院行きなよ、沙良」
「うーん……今日は彩香たちとカラオケ行くから、夜お母さんが帰ってきたら相談する」
「了解! じゃっ、バイト行くわ」
●
「ただいまぁ」
夜七時時頃帰宅した沙良は異変に気付いた。家の中が真っ暗なのだ。この時間には母はもうとっくにパートから帰っていてご飯の支度をしているはずなのに。
「おっかしーなぁ」
沙良は母にLINEしたがいっこうに未読のままだ。電話しても出ない。
「お腹空いたよ……」
それから三時間たっても母は帰って来なかった。
「お父さんは何時頃帰るんだっけ。星羅は門限十一時まで遊んでるしな」
しかし、母だけではなく、日付けが変わっても誰も帰って来ないのだ。Eメールも電話も全部応答なし。何かあったのだろうか。なぜ誰も帰って来ないのだろう。
するとガチャガチャ、鍵を開ける音がした。
「誰??」
「あ、ごめんなさい。門限過ぎちゃった」星羅が慌ててリビングに入ってきた。
「誰もいないよ」沙良がぽつりと言った。
「え? マジ? なんでなんで」
「わかんない。連絡とれない。星羅にもシカトされるし……」
「あ、ゴメン。バイト終わってからかっくんと会ってたから……」
かっくんとは星羅の彼氏だ。二人は幼なじみでいつの間にか付き合うようになっていた。
「てかさぁー、どーする?」星羅が口を尖らせて言った。
「…………」
「…………」
二人ともしばらく無言だった。しばらくして星羅が口を開いた。
「うーん。明日考えよう。もう明日だけど、とにかく寝よう。起きたら考えよう」
沙良は無言で頷いた。
●
♪いつだって朝は来る、どんな闇に入り込もうとも、朝が来なくちゃ始まらない♪
歌いながら台所に立っているのは誰?
「お母さん?」沙良はまだ半開きの目をこすりながら口を開いた。
「おはよう沙良」
振りむいたのはいつもと変わらない母の姿だった。
「お母さん、いつ帰ってきたの? 昨日は心配したんだから」
「え? 何を言ってるの?」
母は不思議そうな顔をしている。
「だって、帰ってこなかったじゃん。星羅だって知ってるよ」
「あんた夢でも見てたんじゃないの? あ、星羅は朝早くかっくんと海に行ったわよ」
「ふーん、星羅なんにも言ってなかった。お父さんは?」沙良は少しイラついた。
「お父さんは仕事に決まってるでしょう。さっ、お母さんはパートに行かなきゃ」
何か納得いかない。でも母がいるのだから現実を認めよう。沙良は冷蔵庫から烏龍茶を出してコップに注いで飲んだ。ふと醤油の香ばしい匂いが漂っているのに気づいた。
「お母さん、珍しく朝からなんか作ってんの?」
「ああ、佃煮よ」
「ふーん……あ! お母さんちょっと見て、これ。ヤバいんだけど」
沙良は部屋着をめくって母に胸を見せた。イボのようなものは昨日より更に二十個ぐらいに増えていた。
すると一瞬、母の目の色が変わった。
「沙良あんた……クワッ、クワッ本当にクワッ、クワッ良かったクワッ」
「お母さん??」
母はいきなり服を脱ぎ始めた。何と母の体は無数のイボで覆われていたのだ。そして笑い出した。
「くくくくくくっ……クワッ、クワッ、クワッ、クワッ、クワックワックワックワックワッ」
「イ、イヤーーーー」
沙良は叫んだ。
「カエルの子はやっぱりカエルなのねクワッ」
そう言って母はボールいっぱいに入ったイナゴの佃煮をテーブルに置いた。




