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深さと重さと  作者: 遠野義陰
第五章
51/55

Heading for spring Ⅻ『before spring 中編』

 


 ファミレスの前まで来たところで怜は一度立ち止まった。店内の様子をうかがうように、歩道に面したガラス張りに一瞥くれてからこちらに振り返り「じゃ、行ってくるね」と微笑みながら言った。

「こってり絞ってやれよ」

「うん。まあ、来るかどうかだけど」ともう一度店内に視線をやってから、「来なかったら来なかったで、一人で豪遊すればいいか」

「昼あんだけ食ったんだから、抑えろよ。夜も焼き肉なんだし」

「大丈夫。私は健康だから」

「寝不足でしょっちゅう目の下にクマ作ってる奴がよく言うよ」

「だからこそ、食べてスタミナをつけるの」ぐっと胸の前で両方の拳を握って力説する。

「まあ昔みたいにすぐに熱が出たりってのはあんまりなくなってるけどさ」

「そうちゃんはね、心配する側からされる側になったことを自覚すべきだよ」

 彼女の長くて白い指が、俺の頬に触れる。

「本当は一秒だって目を離したくないんだから」

 見つめ合ったまま、俺は何も言えなかった。

 頬に触れていた手が、するりと首の後ろに回って、気がつくと彼女の腕の中にいた。

「どうしよう。離れたくない」怜は言った。

「俺もだよ」俺はそう言ってから、彼女の腰に手を回した。


 それから俺たちは軽い口づけを交わして別れた。

 


  

 時間に余裕があったので歩いて帰ることにした。春を感じさせる陽気の中をのんびりと歩いていると、歩道の植え込みに小さな花が咲いているのを見つけた。なんの花だろうか。青紫色の花弁が日差しの白さをかき消すほど鮮やかに映えている。春の花、と断言できるほどの知識がないのでなんともいえないが、とりあえずここは都合良く春の花ということにしておこう。その方が春っぽさを感じられて得した気分になれる。

 自宅へ向かう道中は春探しの旅となった。そこには多分に現実逃避の意味合いも含まれていたが、ともあれ、これから待ち受けている現実と対峙するのに必要な心の栄養補給であるのだから、仕方がないのである。いちいち歩道の脇の草むらに目を凝らしたり、街路樹の新芽をスマホのカメラで撮影したり。そうこうしているうちに、ひらひらと宙を舞う白い物が目に留まった。紋白蝶だ。羽を閉じたり開いたりする度に、上下にジグザグな軌跡を描いて、歩道の脇にある空き地のフェンスを越えていく。澄み渡った青空に、その白さはあまりにもはかなくて、目を凝らしていないと日差しにかき消されて、碧空にとけ込んで見失いそうになる。

 はっとしてスマホのカメラを空に向ける。スマホのディスプレイと肉眼。交互に見たのはほんの一瞬。けれど高空に浮かぶ薄雲に消えてしまったように、そこに蝶はいなかった。写真を撮って怜に送ってやろうと思っていたのに。残念というか無念というか。

 スマホをポケットに押し込み、やれやれと体の向きを変え、歩きだそうとした瞬間、思わず「うわ」と声を上げてしまった。目の前に人がいたからだ。本当にすぐそばである。鼻と鼻がつき合うほどの距離に、中里の不機嫌そうな顔があった。

「ずいぶんな反応ですね」

 思わず後ずさった俺に、この世の不愉快を煮詰めて顔に塗りたくったような顰めっ面を浮かべて彼女は言った。

「いつからそこに?」

「ぼーっと、ちょうちょを眺めていた時からですけれど」と中里は溜息をついた。「先輩は少年の心をお持ちなんですね。目がきらきらしてましたよ」

「何が悪い」

「私に脅かそう、という以上の悪意があった場合、酷いことになってました」

 さらっと恐ろしいことを言って中里はまた溜息をついた。

「いえ、そうですね。そういうことをしにわざわざ声をかけようと近づいていった訳ではないんです」

「謝ろうって?」

「それもあるんですけど」と言って彼女は疑り深い目で俺を見た。「どうして嘘を吐いたんです?」

「嘘?」

「今朝、母が先輩のお母さんと話してるのを聞きました。転んで顔をぶつけたって」

「どうしてだと思う?」俺は肩をすくめた。

「恩を売ったつもりですか?」

「まあそういうことだ」

「陳腐ですね」

「単純な方がわかりやすくていいだろ?」

「不愉快です」

「なら俺は学校に言ってもいいんだぞ?」

「いえ、それは」と中里は口ごもった。

「冗談だよ」と俺は笑った。「正直そっちのことはどうでもいいけど、井上が悲しむだろうからな」

「先輩は、井上先輩のことをどう思ってるんです?」

「友人だよ。だから悲しませたくない」俺は答えた。

 中里はまた溜息をついた。

「そんなに溜息ばっかついてると不幸になるぞ」

「逆です。不幸だから溜息ばっかりでるんですよ」

 ひょろ長い体をしおれさせて彼女はまた溜息をついた。彼女はどこか井上が来ていたロリータを思わせるようなフリル多めなワンピースを来ていて、そのせいで余計に花が萎れたみたいに見えた。

「人を病院送りにしておいてよく言う」

「それは、その。すみませんでした」そう言って萎れたまま、深々と頭を下げる。「大事は、ありませんでしたか?」

「なんだ。心配してくれてるのか?」

「まあその。吐き気があったみたいですし。私も、以前、練習中に転んで頭を打って、それで吐き気に襲われたことがありましたから」

「そっちこそ平気なのかよ」

「ええまあ。軽い脳震盪だっただけでしたので」

「脳震盪はクセになるから気をつけろよ」

「え? ああ、そうですね。ありがとうございます」そう言って彼女は野良犬の様な猜疑心に満ちた目を向けてきた。

「俺の経験則だ」

「はあ」

「事故の後から、めまいとか頭痛がするようになったんだよな」

「そうなんですか」

「医者に怒られたよ。そういうダメージが蓄積してるんだから気をつけろって」

「それはつまり、とんでもないことをしてくれたな、というメッセージを伝えようとしてるんですか?」

「そこまで陰湿じゃねえよ」俺は溜息をついた。

「これから時間あります?」と中里が言った。

「まあちょっとくらいなら」と俺は警戒しつつ答えた。

 中里はまた不幸だ、と言わんばかりの表情で溜息をついた。

「いえ、こんな提案、本来であればあんまりしたくないといいますか。一緒に居る所を誰かに見られて変な噂を立てられても困りますし」

 ぼそぼそとした声で、独り言みたいに呟いた中里は、それからもう一度溜息をついて、「先輩のお宅にお邪魔してもよろしいでしょうか」

「なんで?」

「いえ、謝罪をちゃんとしようと思いまして」

「別にここでもいいだろ」

 俺がそう言うと、中里は「それはその」と口ごもった。何か事情があるのを隠している風である。訊くのも野暮かと思ったが、しかしこれ以上面倒な事に巻き込まれたくない。正直言うと中里の提案を容れるつもりはあまりなかった。だからその口実に使えるかもしれない。そんな思いから俺は「なんか隠してるだろ?」と訊ねた。

「なんですか急に」中里の眉がぴくりと動いた。

「おまえのことだから、怜が家に居ないことは把握済みだろ?」

「そういう目的じゃないですよ」力なく言って、中里はその場にしゃがみ込んだ。「親と喧嘩して行く宛てがないんです」

「それでなんでうちなんだよ」

「細かいことはいいじゃないですか。近所だからですよ。何度か遊びに行ったこともありますし。それにそのうち浅井先輩の顔がみれるかもしれないですし」

「結局下心か」

「否定はしません」

「ちょっとはしろ」

 やれやれと思いながら腕組みをした。

 中里は俯いて黙り込んでしまった。

「大丈夫か?」

 何かを堪えているように見えたので、俺は心配になってそう問いかけた。

「すみません。ちょっと」と言ってこちらを見たその顔は真っ青だった。

「平気そうには見えないな」

「大丈夫です。いつもこうなので」そう言って中里はフェンスによりかかりながら、ふらふらと立ち上がる。

「判ったよ。落ち着くまでうちに居ていいよ」そう言ってから俺は中里のそばに近寄っていって、「歩けるか?」

「一応。あと少し歩けばいいだけですし」

「つらいなら肩、貸すぞ」

「先輩」

「どうした?」

「浅井先輩と抱き合ったりとかしました?」

 真っ青な顔で、脂汗を浮かべながら彼女はとてもまじめな表情をしていた。それを確認することこそが世の真理にたどり着くと言わんばかりの眼差しであった。

 正直意味が分からないのだが、これだけまじめに訊ねられると答えないのも悪い気がして、「ああ」と俺はうなずいた。

 その瞬間、中里はぷっつりと糸が切れたみたいにこちらに体を預けてきた。

「つまりこれは、間接ハグです。残り香が、あぁ、残り香が」

「おまえ欲望に正直すぎるだろ」俺はあきれながら言った。

「お腹がきゅんきゅんしすぎて、余計しんどくなってきました」中里が青白い顔でそう言った。

「バカだろ」

「否定はしません。それではエスコートお願いします」

 やれやれと思いながら、俺は彼女の腰に腕を回して、支えてやりながらゆっくり歩いた。

 そういえば、気になった相手に男が居た時には、まずその男を寝取ってから、本命を落としにいく、というようなことを岡本が言っていたけれど、もしかしてこれはつまりそういうアクションの一部なのでは? なんて疑念が浮かんで来たが、しかし中里が体調を崩しているのは間違いなく事実であるので、考えすぎなだけかもしれない。



         ※※※



 中里優衣と初めて会ったのはいつのことだったろうか。何せ一つ違いのご近所さんである。思い出せる限り最も古い記憶の中に彼女はすでに存在していた。きっと初めて会ったのは、ベビーカーに乗せられていた頃だろう。近所の公園か、幼児向けの予防接種の会場か。ともかく付き合いの長さだけで言えば怜や公康に匹敵する長さだ。けれど一緒に遊んだ記憶というのはあまりない。俺と公康と怜とで何かしているとき、彼女はいつも遠くからこちらを眺めていた。まるで草むらに隠れた警戒心の強い子猫の様な目で、じっと様子をうかがっていた。彼女が何を待っていたのか。言うまでもない。怜にじゃれつく為の機会を見計らっていたのだ。三人で遊んでいると、大抵どんくさくて体力のない怜は途中で脱落して、遠くから見守るお姉さんモードに入るので、そのときが中里にとっての好機であった。遊具の陰からすっと出てくると、軽やかな足取りで、ベンチかブランコに腰掛けて一休みしている怜に駆け寄っていく。さながら母猫に駆け寄る子猫である。幼い頃の彼女はとても小柄だったので、いつも怜の膝の上に居て、沈黙する時間が無駄だと言わんばかりに怜に話しかけていた。怜はそれに相づちをうちながらいつもニコニコしていた。きっと彼女にとってそれはかけがえのない幸せな時間だったのだろう。しかしそれも長くは続かない。無粋な悪ガキ二人がそれをぶちこわすのである。それが俺と公康である。まあ中里が俺を嫌っている理由の一つは間違いなくこの幼少期の経験が原因しているのだろう。それにしては公康が特に嫌われている様子がないのが腑に落ちないのだが。

 それにしても中里も変わり者だ。近所の年上のお兄ちゃんに、あんなに背の高くて気の利くイケメンがいるのに、そっちに行かずに怜に惚れてしまうのだから。俺が中里の立場なら怜に憧れはしただろうが、恋愛感情の矛先は公康に向いていただろう。

 そう、変わり者である。中里は地域の子供たちの中でも少し浮いた存在だったのは確かだ。何かが決定的に違っているという訳ではないのだが、なんとなく周囲に馴染めていないような雰囲気があった。そう言う意味では外面を繕いつつ、本音では周囲のほとんどの人間に心を許していなかった怜と似たところはあったのかもしれない。

 いや、しかし一つだけ、違いがあるといえばあった。本人がどうという訳ではないのだが、彼女の母親がなかなかに癖のある人物で、頑固な上に干渉が過ぎるところのある、よく言えば熱心、悪く言えば所謂毒親に類するような母親であった。怜の母親と仲が悪かったこともあって、怜と遊んでいるところを目撃したら最後、ヒステリックな怒声が響いて、うちの子に悪影響だのなんだのと罵詈雑言が暴風雨のごとく横殴りに襲いかかってくるのである。当時小学校低学年だった怜はそれを浴びながらひたすら黙っていた。口角に泡をため飛び散る唾で頭のてっぺんからつま先までずぶ濡れにせんばかりにまくし立てたあと、中里の腕をとって地面をけっ飛ばすようにずかずか歩いて去っていくのである。

 一度、怜に良く耐えられるな、と言ったことがあった。すると彼女はけろっとした顔でこう言ったのである。

「うん。だって何言ってるか興味ないから。それにどっちかというとうちのお母さんの方が怖いし」

 全く堪えていないのは中里も同じであった。何度怒鳴られて連れ戻されようがお構いなしに怜にじゃれつき続けた。そればかりか時々怜の家に遊びにくることもあった(怜がうちに居るときには、彼女目当てでうちに来ることもあった)。彼女が母親の態度をどう思っていたのか知らないけれど、ともかくあまり深刻に受け止めていなかったのは間違いない。きっといつもあんな風だから、「またか」という感じで慣れていたのかもしれない。実際そうなったとき、彼女はやれやれと溜息を吐いて、大人げなく怒鳴り散らす母親を冷めた目で見ていた。

 親子の関係がその後改善されたという話は聞かないし、彼女の母親が丸くなったという話も聞かない。うちの母さんは何故か中里の母親と仲が良く、いろいろ話をするらしいが、その内容から察するに毒親っぷりにはむしろ磨きが掛かっているらしい。

 そんな彼女をうちに招いてしまった。これはまた新たな煩いの種ではなかろうか。少々不安である。



       ※※※



 家に着くと彼女をリビングのソファに寝かせてやった。客間の押し入れから毛布を持ってきて掛けてやると「ありがとうございます」なんてすっかりしおらしくなって毛布にくるまった。かなり冷えを感じているのだろう。膝を胸元に引き寄せるように丸まったままぴくりとも動かない。

 リモコンを手に取り、エアコンの温度をいつもより高めに設定した。それから飲み物を用意する為に台所へ向かった。

 何か暖かい物がいいだろうと思ったので小鍋でミルクココアを作った。ココアを注いだマグカップを持ってリビングへ戻った。中里はソファの上で丸まったまま、浅い呼吸を繰り返していた。

「痛み止め飲むか?」

 中里はゆっくりと頷いた。

 声を出すのも辛いのだろう。

 怜も少し前までもの凄く重いのが来ていたこともあって、そのころに使っていた強い鎮痛剤が残っていた。最悪、俺が病院で処方してもらっている胃薬必須の鎮痛剤という手もあるが、それはあくまで最終手段だ。

 キッチンカウンターの引き出しの中から鎮痛剤の箱を取り出して、中身を確認する。まだ三回分くらいは残っていた。

 鎮痛剤とぬるま湯の入ったコップをお盆に乗せて、それをリビングのテーブルへと運んだ。

 中里はのそのそと起きあがって、錠剤を口の中に放り込んで、それをぬるま湯で一気に流し込むとまた横になった。

「毎月こうなのか?」

 中里はうなずいた。

「産婦人科で診てもらった方がいいかもな」俺は言った。「怜も前は、月の物が来る度に、ちょうど同じように苦しんでたけど、病院で診てもらって、それでかなり良くなったから」

「病院に行こうとはしたんですけどね」と中里がかすれた声を出した。「そのことでお母さんと喧嘩しちゃいまして」

 変な偏見があるみたいなんです。産婦人科に、と言って中里は力のない苦笑を浮かべた。

「それにこれぐらい普通だって。お母さんもいつも重たいから」

「頑固そうだもんなあ」

「困りますよ。ほんとに」そう言って中里は寝返りを打って仰向けになった。「自分が見て聞いて、知ったことがすべてだと思ってるタイプなんですよ。だから他人に何か指摘されるのが嫌いで。浅井先輩のお母さんと仲が悪かったのもそれが原因っぽいんですよね」

「そうだったんだ」

 不仲の理由など全く知らなかったので、少し興味があった。気がつくと、ぐっと前のめりになっていた。中里は仕方がないというような目で「詳しいことまでは私も知りませんけど」と前置きしてから、「何か勘違いして覚えていたことを訂正されたらしいんです」

「ちょっと恥ずかしい奴だな」

「はい。そしてお母さんはそれが耐えられない人だったんです」

「それで逆恨みを?」

「そういうことです」中里は目を閉じるとゆっくり息を吸って、細く長く、吐き出した。「今朝、あまりにも痛みがひどいから病院に行きたいって、言ったんです。ちょうどお小遣いが入る前で金欠だったから、前借りしようと思って。そしたらそんな必要はないっていうんです。だから私はムキになって、浅井先輩が病院で診てもらって、治療を受けて楽になったって話をしちゃったんです。そしたらもう、ヒス起こして怒鳴るわ喚くわで。ほんと、娘の体調よりも自分のプライドが大事なんて迷惑な母親ですよ」

 少しだけ痛み止めが効いてきたかもです。そう言って中里は体を起こすと、マグカップに手を伸ばした。

「甘くて暖かい物を飲むと、ほっとしますね」

 両手で大事そうにマグカップを抱えながら彼女は言った。

「客間に布団あるから、そっちで寝るか? まだ結構辛いだろ?」

「先輩は、いつもそうなんですか?」呆れた風に彼女は俺を見た。

「そうって、なにが?」

「弱ってる女の子相手に、そういうことするのはダメだと思いますよ」

「他意はないぞ」

「だから質が悪いんです。先輩、結構面倒くさい女の子にまとわりつかれてるみたいですけど、自業自得ですよ」

「それはまあ、はい」

「ああ、そうだ。先輩、その」と中里は何か言い掛けたが、口の中でもごもご言うばかりで後に続かない。そして「なんでもありません」と毛布の中に顔を埋めてしまった。

 何となくその様子を察して、俺は電話のそばのメモ帳にさらさらとペンを走らせ、そのページをちぎるとマグカップを重しにして、テーブルの上に置いた。

「布団敷いてくる。トイレの場所とかは、知ってるよな?」

 毛布がもぞもぞ、と動いた。頷いたのだろう。小さい頃から怜に懐いていたこともあって、昔はよくうちにも遊びに来ていたから、まあ問題はないだろう。

 客間に布団を敷いて、それからファンヒーターの電源を入れた。電源ボタンのランプの点滅をぼーっと眺めていると、ひたひたと廊下を歩く足音が聞こえてきた。そしてトイレの扉が開いて、閉まった。何となく気持ちがそわそわしてきて、特に意味もなく窓辺に寄りかかって外の風景を見たりしているうちに、ファンヒーターがじぃーっと唸りを上げ、ぼう、と点火して、温風を吹きだし始めた。

 不思議な状況だな、と思う。昨日俺の大切な友達を傷つけて、俺を病院送りにした相手を、何故か親身になって介抱してやっている。昨日の敵は今日の友、なんて少年漫画みたいな考えなどではなく、もっと捻れて曲がった自己満足の一種というか。あんなことをされたのだから、と見捨てる選択肢もあったはずである。けれどそうしなかったのは、苦しんでいる女の子を見捨てるなんて道義的にどうなのか、というある種の道徳的な自己満足によるものだった。彼女を介抱すると決めた時の俺の中には、怪我の原因を誤魔化した時のような打算は存在せず、ただ純粋にそうするべきであるという使命感のようなものがあって、それに背中を押されていたのだ。

 とはいえ、相手が中里だったからこそ助けたという面もないとはいえない。彼女は決して知らない他人ではない。むしろよく知っている部類だ。俺と中里の間に積極的な交流はなかったが、怜を通じた間接的な交流は昔からあって、だから、妹のような、といえるほど身近ではないにしても、多少親身になってやろうと思える程度には親近感はあったのだ。赤の他人というほど遠くはないし、幼なじみと言い切れるほど親しくもない。俺たちの間にある距離感とはそのようなものだった。

 ポケットの中でスマホが震えだした。取り出して確認すると怜からだった。

「どうかした?」

「来ない」

 俺の問いかけに、とても簡潔な答えが返ってきた。

「そっか」

 なんとなくこうなるだろうな、という予想はしていたので驚きはなかった。それよりも不安が的中したことによって生み出された、さらに大きな不安が胸の内で蠢きだしていた。

 夏井はどこへ行ったのか。

 気がつくと頭の中であいつが行きそうな場所を考え始めていた。

「今日だけは許可します」

 藪から棒に怜が言った。

 俺は意味が判らずに「何を?」と問い返していた。

「あの子の為にがんばることを、許可します」

 電話口に響いた声は固く、鋭く、耳朶を打った。まるでこちらの胸の内を見透かしたように。

「いいの?」

「そうしないと、そうちゃんが収まらないでしょ? それに私も言ったしね」

 きっといま彼女は苦笑を浮かべているだろう。しょうがないという風に、寂しげに口角を上げて、浮かんだえくぼの陰に本音を隠して。

「怜はどうする?」

「せっかくファミレスにいるから軽くなにか食べよっかなぁ。その後は、適当に時間を潰してから、直接焼き肉屋さんでお義母さんと落ち合う予定」

「帰ってこないんだな」

「うん。あ、そっちはまだ一人?」

「ああ、えっと」

「誰かいるの?」

「中里がさ、親と喧嘩して困ってたから」

「優衣ちゃんが?」怜が驚いた声を出した。「大丈夫?」

「こっちは平気。あいつ体調がかなり悪いみたいで、昨日とは別人みたいだよ」

「そっか。心配だね」

「生理がかなりキツイらしい」

「そういえばそんなこと言ってたっけ」

「知ってたんだ?」

「うん。ほら、あの子、私に懐いてるでしょ? もういろんなことを向こうから話してくれるから。多分あの子のことについて詳しい人間を世界中から選んでいったら二番目くらいには着けるよ」

「病院を勧めたのも怜だったり?」

「そうだけど、まだ行けてないんだ」

「そのことで親と喧嘩したんだってさ」

「うげ。まああの母親だし」

「不仲なのも知ってるんだな」

「それも本人から聞いた。ねえ、そうちゃん、優衣ちゃんに伝えといて。もしなんだったら私が今度病院に連れて行ってあげるからって」

「いいけど」

「けど?」

「あんまり中里には怒ってないんだなって」

「昨日の事はびっくりしたけど、でもまあ、あの家庭環境だとストレスが溜まって仕方ないだろうし」

「もしかして結構お気に入りなの?」

「んー。まあさくらとか雪ちゃんには劣るけど。私あの子のこと結構好きなんだよね」

「へえ」

「まあでも。それはそれとして、そうちゃんの怪我はあの母親を黙らせる手札の一つだから。やるときはやるよ」

「まあその辺は任せました。そういうの苦手だから」

「任せといて」と気合いの入った声が響いた。「じゃあ切るね」

 彼女の吐息が遠ざかる気配がして、俺は咄嗟に

「ちょっと待って」と引き留めた。理由があった訳ではない。ただこのまま通話を終えてしまうのは正しくないような気がしたのだ。だから「どうしたの?」という彼女の問いかけに答えるべき言葉を持っていなかった。

「怜」俺は彼女の名を呼んだ。「愛してる」

「急にどうしたの?」と笑いながら彼女は言った。「今日はちょっと変だね」

「そう言う気分なんだよ」

「私も愛してるよ。そうちゃん。明日は一日一緒に居ようね」

「うん」

「じゃあまた後でね」



 

 用意ができたことを伝えようと廊下に出たところで、ばったり彼女に出くわした。客間の前で待っていたらしい。相変わらずの顔色に、げんなりとした表情を張り付けて「お熱いことです」と溜息をついた。

「そう言うわけだから隙なんてないぞ」

「判ってます。浅井先輩のことは好きですけど、あきらめてますから」

「へえ?」

「信じてないですね?」

「悪い噂は聞いてるからなあ」

「言っておきますけど、私は無理矢理どうこうしたことはありませんからね」

「泣いてる子を押し倒してたとか聞いたけど」

「誤解です。元彼にひどいことをされた、って泣きながら相談されて、その流れでそうなっただけですから」

「彼氏がいる子の彼氏を寝取って捨てた後に、その子を落としたとか」

「まあ、それは、」と中里の目が泳ぐ。「いえ、それより寝かせてください。正直立ってるのも辛いんですから」

「ああ、すまん」

 客間に入るなり、彼女は布団の上にうつ伏せに倒れ込んだ。それからスカートの裾が乱れるのにも頓着せず仰向けになって、「ココア、ありがとうございます」とこちらを見上げながら言った。

「こう言うときはココアが良いって聞いたからな」

「嘘です」と中里は微笑を浮かべて「先輩がココアが好きなだけです」

 俺は肩をすくめた。「良くご存じで」

「浅井先輩を観察していると、必然的に先輩のことも目に入ってきますからね」

「そう言う自分もココア好きだろ」

「どうして?」と中里が驚いた風に目を見開く。

「町内会の行事で、おまえいっつも飲み物はココアが良いって言ってたじゃないか」

 夏場の公園の清掃の後ですら温かいココアが飲みたいとか言って、気を利かせて冷えたスポーツドリンクや果汁入りの清涼飲料水を用意してきた大人たちを困らせていた小さな姿を、いまでもはっきりと思い出すことができる。いまとなってはすっかりでかくなった中里も小学生の頃は学年で一番前に並ばされるくらいに小さかったのだ。その当時から怜には甘えて、俺にはキツく当たっていた。まるで気むずかしい子猫みたいだった。

「あの頃は可愛げがあったんだけどなあ」

「失礼な人ですね」そう言って中里は一度起きあがった。そして布団の具合を確かめるように、両手で掛け布団をぽふぽふと押さえてから中に潜り込んだ。まるで新しい寝床を提供された猫みたいだな、なんて思っていると「何見てるんですか」と布団の中から睨まれてしまった。

「そうだな。いまでも可愛げはあるな」

「キモっ」

「おまえこそ失礼な奴だな」

「お互い様ですね」と中里は笑った。

「そんな互い様ごめんだ」俺は苦笑した。

 ふと壁の時計を見てみると一五時を少し回ったところだった。まだ夏井たちが来るまで一時間くらいある。

「じゃあ俺は自分の部屋にいるから。なんかあったら適当に連絡してきてくれたらいいよ。メモに色々書いてただろ?」

 そう言い置いて、俺は廊下にでようとした。

「待ってください」

 呼び止めたその声は、とても切実な響きで、俺の足下にからみついた。

「ここに居てもらえますか?」

「どうして。一人の方が気が休まるだろ?」

 怜がそうだったので、中里もそうなのだろうと思っていたのだが、こちらを見つめる潤んだ目を見るにどうもそう言うわけではないらしい。

「体調が悪い女の子を一人にしておく気ですか?」

 気弱な目をしながら、口だけは挑発的で、そのギャップが少しだけ愛らしく思えた。

「判ったからそんな目するな」俺は溜息をついた。

「なんですか。そんな目って」

「鏡見てみるか?」

「遠慮しておきます」そう言って中里は寝返りをうってこちらに背を向けた。俺は部屋の隅に積んでいた座布団を一枚掴んで壁の近くに敷いて、その上にあぐらを掻いて座った。壁に凭れて少し上向いた視線の先に時計がある。その秒針をぼんやり眺めているうちに瞼が重たくなってきた。

「先輩」

 微睡みの淵へと転げ落ちようとしたまさにその瞬間、突然話しかけられて、ゆるんでいた神経が一瞬で張りつめて弾かれて、なんだかもの凄い形相で振り向いてしまったらしい。中里は俺の顔を見て頬をひきつらせていた。

「あの、」と遠慮がちに言って彼女は目をそらした。

「どうかしたか?」と俺は平静を装った。

「いえ、その。少しお話しませんか?」

「寝てなくていいのか?」

「話してた方が気が紛れるんです」

「それならさ。さっき濁した質問の答えだけど」

「少なくとも先輩のことはねらってませんから安心してください」そう言って中里はほう、と浅く息を吐いた。痛み止めを飲んだとはいえ相変わらず辛そうだ。そう簡単に引く痛みではないのだろう。けれど彼女は言葉を続ける、「鈍い子ならいいですけど、浅井先輩は絶対に気がつきますから。もし私が先輩に手を出してそれがバレたら、殺されます。冗談抜きで」元々青い顔をさらに青くしながら彼女は言った。「もしくは何か弱みを握られて一生逆らえない体にされちゃいます」

「おまえ怜のこと好きなんだよな?」ひどい言い草だったので思わずそう訊ねてしまった。

 中里は顎を小さく引いて頷いた。

「でもそれとこれとは別ですよ。先輩はずっと一緒に居て慣れてるから判らないんです。浅井先輩は怖い人です。ご両親が事故で亡くなる前から変わらず、です」

 おまえは本当に良く怜のことを見てるんだな。俺がそう言うと中里は口元にうっすらと笑みを浮かべてそれから瞼を閉じた。

「少し寝ていいですか」と彼女は言った。

「気が済むまでどうぞ」

「そうしたいですけど。きっとそのうちお母さんから電話がかかってきます。自分が追い出したクセに、どこに行ってるんだ早く帰ってこいって」

「迷惑な話だな」

「本当に」と彼女は肺をぎゅっと絞るように長く息を吐いてから、ゆっくり息を吸い込んだ。「先輩の家の子になりたいです。先輩のことは異性としては微妙ですけど、お兄ちゃんなら大歓迎です」

「そりゃどうも」

 あはは、と笑って彼女は寝返りを打ってこちらに背を向けた。

 しかしすぐにまたこちらに寝返ると「そう言えば先輩、マネージャーやってましたよね」と言って掛け布団のなかからもそもそと抜け出して、その上にうつ伏せになった。手のひらを下にして重ね合わせた上に顎を置き、ちらっと目でこちらを見て「私にさらなる恩を売る機会を差し上げます」

「なるほど。それでセクハラだなんだと騒ぐ訳だ」

「しませんよ。まだ信用してないんですね」

「昨日の今日だぞ?」

「それは、まあ、そうですけど」と中里は目を伏せる。

「冗談だ。ほら、仰向けになれ」

「え? 仰向けですか?」

「いいから。おなかに触るけど、嫌なら無理強いはしないからな」

「いえ、問題ないです。これが楽になるならなんでもいいです」そう言って中里はごろんと仰向けになった。俺は彼女の下腹部にそっと手を添えた。そして幾つかあるツボを優しく指圧していく。

「先輩」

「痛かった?」

「いえ、その、何か、新しい何かに、目覚めそうです」

「目覚めるな。寝ろ」

「手つきがいやらしいんですよ」

「おまえの心が煩悩にまみれてるからだよ」

「ぐうの音も出ませんね。あ゛ぁ゛……。ぎもぢいい」

「気持ち悪い声出すなよ……」

「先輩マッサージ上手すぎますよ。腰とか足もお願いできますか? 冷えてだるいんです」

「言われなくても」

 俺は下腹部から手を離して右の太ももを指先でほぐしていく。バスケをしているからか、怜と比べると筋肉に弾力があって硬い。でも野郎の疲労して凝り固まったバッキバキの太ももと比べれば大したことはない。

「やばいです。先輩。普通そんな内股触られたら膝蹴りかましてますけど、これは無理です。抵抗できません」

「余計なこと言わなくていいから寝てろ」

「先輩は冷たいですね。指先は温かいのに」

「その温度は俺の真心だ。受け取っとけ」

「キモ」

「おっと、間違えた」

 押し込むと結構痛いツボをぐりっと刺激してやる。

「う゛っ――、痛、いた、痛、い」

 声にならない悲鳴を上げて中里は布団をばんばん叩いた。

「生理でダウンしてる女の子になんてことするんですか!」気色ばんで中里は吠えた。

「口の利き方には気をつけろ。あと足、軽くなってるだろ?」

「え? ああ、あれ。ほんとだ」と中里は右足を曲げたり伸ばしたりして足の感覚の変化を確認してから、「ありがとうございます」

「もう片方もやるからな」

「痛いのは嫌なんですけど」

「それはお前の態度次第だ」

「黙ってます。あ、でもさっきのは他の子に言わない方がいいですよ。マジでキモかったんで」

「……参考にする」

 左足をほぐしている間、彼女は黙って大人しくしていた。黙っている、という宣言を守っているというよりは眠たくてしゃべるのが面倒になっている風だった。それからうつ伏せの体勢にさせて、腰やお尻をほぐしている間に彼女はすっかり寝入ってしまった。そのままでは寝違えてしまうかもしれないので、仰向けになるようにそっと寝返りを打たせて、それから布団を掛けてやった。

 ファンヒーターの唸りが静かに空間を満たす。そのなかに小さな寝息が混じって、畳の上に降り積もるように、静寂が積み重なっていく。

 秒針の刻みも、自分の鼓動も、窓の外から時折聞こえて来る車の音も、すべてが深海の海底に積もる塵のように死に絶えていく。

 不意に場違いなほど鮮明な電子音が鳴り響いた。そのとき俺はぼんやりと壁の時計を見つめていて、秒針が一周するほどの時間を経てようやく来客だということに気がついた。

 中里は眠ったままだった。起こさない様に足音を忍ばせて、ゆっくり戸を開けて廊下に出た。

 玄関の、ガラスの向こうに見えた人影は一人分。その服装のシルエットからして井上であることは明白だった。今日はウエストがきゅっと締まった黒いゴスロリのワンピースを着てきたらしい。ヘッドドレスの影も見える。

 やっぱりかと思いつつ土間に降りて玄関を開けた。

「ごめん」

 俺の顔を見るなり彼女はそう謝った。俯く姿は黒百合のようだ。

「中で話そう」俺は言った。

「判った」そう言って彼女は頷いた。黒百合は相変わらず花弁を俯かせたまま、表情を隠すように垂れた前髪の向こうに揺れる瞳にはいまにも泣き出してしまいそうな不安が揺れていた。

 力のない足取りで彼女は歩いた。

 リビングへ案内すると、彼女は崩れ落ちるようにソファに腰掛けて、両膝の上に肘を置いて、顔を両手で覆った。

「何か飲むか?」

 井上は顔を覆ったまま頷いた。

 俺はテーブルに置きっぱなしだったマグカップとコップをお盆に乗せて回収して、キッチンに向かった。

 中里に出してやっていたマグカップの中が空っぽになっていたことになんとなく安堵しながら流しにそれと、コップを置いた。それから電気ケトルに水を入れて電源を入れた。お湯が沸くまでの間にティーカップと紅茶のティーパックを用意した。面倒だったのでカップを温める行程は省略した。電気ケトルからぼこぼこ沸き立ち始めて、カチっとスイッチが切れる乾いた音が響いた。その音はまるで形の悪い紙飛行機が失速するように、静寂に吸い込まれていった。

 カップに熱湯を注ぎ込む。そこへティーパックをゆっくりと沈める。琥珀色が、煙るように広がって、湯気と共に柑橘の酸っぱい香りが立ち上る。それを胸一杯に吸い込んでから、ダイニングテーブルの上のデジタル時計を見た。一秒一秒変わっていく数字を見つめていた。ちょうど良い頃合いでディーバッグを引き上げる。

 シュガーポットを棚から出して、カップと一緒にお盆に乗せてリビングへ向かう。

 相変わらず井上は顔を覆ったままだ。そのまま微動だにしない。このソファは地獄の門だっただろうか?(ポーズはちょっと違うけれど) なんてくだらないことを考えつつお盆をテーブルに静かに置いた。

 井上は両手を下にずらして、チューリップのような形にしてそこに顎を置いてこちらを上目遣いに見上げた。

「ミルクティーが良い」

「また今度な」

 俺がそう言うと彼女は両手をはずし、がっくりとうなだれたあと、その長い腕を伸ばし、カップを手に取り一口琥珀色の液体に唇をつけた。そしてしばらく思案するようにどこか遠くに目の焦点を漂わせた。決心したようにカップをソーサーに置くとシュガーポットを引き寄せて、中の角砂糖を二つ、三つ、四つ五つとカップに放り込んで、ティースプーンでぐるぐるかき回した。それからまた一口紅茶を啜り、ほっとしたように表情を緩ませた。

「俺も大概甘党だけど、凄まじいな」

「三島もやってみる? お砂糖が溶け残って最後にそれをスプーンで掬って食べると幸せだよ」

「それは」味は想像出来るし魅力的ではあるがやったらなんか負けな気がする。「遠慮しとく」

「そう」と井上は心なしかがっかりしたように呟いた。

 彼女がティーカップを置くのを見計らってから話しかけた。「それで、何があったの」

「判らない」そう言って井上は膝の上でぎゅっと拳を握った。「けど、変なの」

「変?」

「多分、昨日の事を気に病んでるんだと思う」

「それで姿を眩ました?」

 井上は頷いた。

「香奈は普段はあんな風だけど、もの凄く傷つきやすくて繊細で、臆病だから」

 俺はスマホで今朝届いたメールを開いて、井上に見せた。「これ、どう思う?」

 井上はスマホの画面をじぃっと見つめてから、「どうしよう」と呟いて両手で顔を覆ってまたさっきのポーズに戻った。「早まったこと考えてなきゃいいけど」

「早まったことって、そんな縁起でもない」俺は言った。しかし自分で口にしてみると、そんな可能性がありそうな予感が強く、まるで暗闇で感じる何かの気配のようにまとわりついてくる。早まったこと、と言うのが具体的に何を指しているのか判らないのがなおさら気持ち悪い。ともかく、秒針の歩みに合わせて悪いことが進行していることは確かなのだろう。

「なあ、何を考えてると思う?」俺は訊ねた。

「何を」と井上は繰り返した。彼女はしばらく考え込んでいた。そして、何か本当に縁起でもないことを思いついたのか青い顔をしながら「たとえば」とこちらを見て言った。「北高を諦めて余所に行く、とか」

「いまから志望校変えたりできるのかなあ」

「私立なら多分、まだ願書受け付けてるところもあるんじゃない?」

「でも、どうして?」

「三島に合わせる顔がない。自分が三島と一緒に居ると、三島が不幸になる。多分そんなこと考えてるんだと思う」

「そう言えば昨日の事ちゃんと説明してなかったなあ」

「なるほど、だから」と井上は視線を鋭くしたが、すぐに一度目を閉じて、天井を仰ぎ、呻きの混じった溜息を吐き出した。「ごめん」

「いや、俺があのときちゃんと説明してれば良かったんだ」

 帰り際に会った時、彼女は自分のせいで俺が中里にボコられたと思いこんでいた。そして俺はとっさにフォローできないまま彼女を帰らせてしまった。自分もあのとき一杯一杯だったと言い訳はできる。実際そうだった。でも、もう少し彼女のことを気遣ってやるべきだったのだ。友人としてそうするべきだったのだ。

「いま、どこにいるんだろう」俺は呟いた。

「一応気になって、来る前に、香奈が行きそうな場所を覗いたんだけど、いなかった」

「家には?」

 俺がそう訊ねると彼女は首を横に振って目を伏せた。

 井上が思い当たるところを探して居なかったのだから、これはもう普段彼女が行かないような場所に居るか、あるいはたまたま巡り合わせが悪かっただけかもしれない。

「二人で手分けして探せば見つかるかもしれない」俺は言った。

「あてはあるの?」井上が言った。

「そこなんだよなあ、問題は」

「闇雲に探しても見つからないと思う。香奈って隠れるのすごく上手だから」

「そうなの?」

「小学生の頃、かくれんぼするといつも最後まで見つからなかったから」

 確かにそう言われてみれば、かっちゃんはかくれんぼが上手だった覚えがある。

「あ、そうだ」

「どうしたの?」

「いや、あいつが昔こっちに住んでたころによく一緒に遊んでた公園があるんだけど。もしかしたらそこかも知れない」

「かもしれない」と井上は頷いた。

 善は急げとばかりに立ち上がって、ふと思い出す。そういえば客間で中里が寝ているんだった。

「三島?」リビングから出ていこうとしていた井上が、散歩中にリードを引っ張られた犬みたいな顔でこちらを見た。

「いや、実は来客中だったのを忘れてて」

 昨日あんなことがあったばかりだ。中里も井上も、互いに顔を合わせ辛いだろう。だから俺は誰が来ているのかということは濁しておいた。

「ああ、中里」と井上は当然知っているとばかりにそう言い切った。「あの子の匂いがするし。思い返してみれば玄関に靴、あったよね?」

「えっと、そうだな」

 靴で判ったというのならともかく、真っ先に匂いが出てくるってどいうことだ。困惑していると、井上の鼻がぴくぴく動いて、「なるほど」と呟いた。

「おまえは犬か」俺は言った。

「鼻はよく利く方なの」と井上は表情を変えずに言って、「あの子、毎月重たいから。どういう経緯かは知らないけれど、三島が助けた、っていう感じ?」

「正解」俺は言った。

「どこ?」

「そこの客間」

「ちょっと待ってて」

 そう言うなり彼女は廊下を歩いて客間へ向かった。俺はすぐにその後を追いかけた。

 客間では中里が穏やかな寝息を立てて眠っていた。井上はこちらを振り向くと困った顔でじーっと見つめてくる。

 そんな顔で見つめられても困るんだけどなあ。とかなんとか思いつつ、俺は井上に改めて事の経緯を説明した。

「でさ、井上は中里に何を言おうとしてたんだ?」

「何か、良からぬことを企んでいたんじゃないかと思って」と井上はこちらの目を見ずに答えた。

「それなら大丈夫だよ。少なくとも、そういうことはあり得ないだろうから」

「なんで?」

「怜がいる」

 俺のその答えを聞いた彼女は意味ありげな視線を眠る中里に向けて、「私以外にも怖い物があるんだ」と口元を緩ませた。

「井上も、怜も、そんなに怖いもんかね」俺は言った。

「三島は怖くないの?」と井上は何故かちょっと獰猛な笑みを浮かべている。

「俺が一番怖いのは奈雪姉さんかなあ。井上は会ったことないんだっけ」

「直接は知らない」と井上は言った。それから彼女はもう一度中里の方へ目を向けた。子犬を見守る親犬のような柔らかな眼差しだった。その瞳から溢れる慈愛は、どうしようもない後輩に対する、しかしだからこそ得ることのできる愛情によるものなのだろう。きっと中里が望むような関係にはなれないだろう。けれど違う形で井上に愛されているのだ。

「起こすか?」俺は言った。

 井上は首を横に振った。「気持ちよさそうに寝てるから、駄目」

「夏井のことはどうするんだよ」

「とりあえず、少し様子を見て、目を覚まさない様なら、私だけで行ってくる。地図のアプリで場所を確認すれば大丈夫なはずだから」

「りょーかい」俺は窓の外を見た。西日が真っ赤に色づいている。直に赤光は暗くなり、その色を濃くしながら夜にとけ込んでいくだろう。

 それから俺たちは二人並んで壁に寄りかかって、秒針の音を聞いた。

「一年の時から、色々大変な子だったの」

 不意に彼女が口を開いた。一瞬、なんの話だろうと思ったが、すぐに中里のことだと思い至った。彼女は先ほどと同じ目をしていた。

「小学校の頃からミニバスケをやってて、実力はあったけど、協調性が全然で、自分についてこれない奴が悪いっていう。そう言う感じで、そんなのだから当然先輩に目を付けられて、私の見てないところで嫌がらせを受けたりしてたんだ」

「昔から、あんまり輪の中に入れるタイプではなかったからなあ」

「そう言うところが他人事に思えなくて。それにセンスもあったから。だから私が守ってあげた。そうこうしているうちにだんだん私に懐いてくれて。私が言ったことは素直に聞いてくれた。だから私は言ったの。もっとみんなに心を開かなきゃ。バスケは一人ではできないんだって」

「それで、中里はどうしたの?」

「徐々にだけど、私以外とも話すようになって、総体の前くらいには一年のまとめ役になってた。だから私がキャプテンになったときは、中里を副キャプテンに選んで、そのまま私の後を継いでもらった。まあでも、まさかあんなことしてたなんて、ちょっと意外だった」

「悪い噂は勘違いだそうだ」

「けど、部を私物化してるようなものだし」

「結束力は高くなったんじゃないか?」

「そうだといいけど」と井上は溜息をついた。「ハーレムって言うのかな、ああいうの」

「多分」

「きっと水面下で序列争いみたいなことしてると思うんだ」

「あるだろうなあ」

「何か問題起こしたりしたら寝覚めが悪いし、釘差しとかないと駄目だね」

「昨日は何を説教したんだ?」

「覚えてない」

 俺は彼女の顔を見た。

 彼女は「正直ブチギレてたから。多分さっき言ったことも注意したとは思うけど」と苦笑した。

「あんまり井上が激高してるところとかって想像出来ないな」

「普段の顔と怒ってるときの顔が一緒だから怖いってよく言われた」

「中里に?」

「うん。でもこの顔は生まれつきというか、そういう性分だから」

「そっか」

 でも、そりゃ確かに怖いなあ、と内心苦笑しつつ、最近の彼女のことを思い出していた。改めて、この不健全な関係になってから思うのは、彼女は意外と表情が豊かな女の子である、ということだ。なんだかんだ、笑ったりするし、赤くなるし、井上本人が考えているよりもずっと華やかな女の子なのだ。そういうことを伝えてやりたいのだが、多分それが駄目なんだろうなあ。でも言いたくなるのは、それもまた性分という奴だろうか。

「私は、かわいくないから」

「またそんなこと言って」

「でも、そうでしょ?」

「少なくともそこで寝てる奴よりは、可愛げはあるよ」俺は言った。

「そうかな?」

「そうだよ」井上の目をじっと見つめて俺は答えた。

 彼女の耳が一瞬で真っ赤に染まった。

「なに、人の目の前でいちゃついてるんですか……」

 地の底から這い出してくるような気怠い声で言って、中里がこちらに寝返りを打った。

「それに可愛げがないとはなんですか。さっきと言ってること違ってないですか?」

「それはそれ」俺は言った。

「カッとなるとすぐ手が出る所は可愛くない」井上が言った。

「うぅ、そのお説教は昨日耳が痛くなって気持ちよくなるくらい聞きましたから」そう言って中里は両耳を手で押さえるジェスチャをした。

「元気そうでなによりだ」俺はため息をついた。「これからちょっとだけ二人で出かけてくる」

「私を一人にしていくんですか?」

「おとなしくしてろよ。留守番任されてるって事にしておけば、もし帰ってこいって電話が来ても、時間稼ぎする理由にはなるだろ?」

 俺がそう言うと中里はなぜか呆然とした表情で瞬きを二度三度と繰り返してから、寝返りを打ってこちらに背を向けてしまった。

「大人しく寝てればいいんですよね。寝てれば」

 ふて腐れたように言う彼女を不思議に思って、その背中を見つめていると、「三島」と井上がほのかに不機嫌そうな表情で話しかけてきた。

「なに? どうした?」

 何か彼女の気に障るようなことでもしただろうか、と少しだけ不安になる。

「優衣ちゃんにも好かれてるんだね」そう言って井上は中里の方へ視線を送った。その先にある背中が一瞬、びくっと震えたように見えたのは気のせいだろうか。

「今日、こいつほとんど俺の悪口しか言ってないぞ」

 変なことを言うやつだな、と思っていると彼女はこれ見よがしに肩をすくめて、何も言わずに立ち上がった。

「今のどういう意味だよ」

「知らない」

 素っ気ない態度で井上はそう言った。





 

 夕日があかね色に染め上げる中を俺たちは歩いていた。電柱やどこかの家の庭からはみ出している植木の枝から伸びる影は、長く細く、その先端では夜と夕暮れの境界が曖昧になっている。日中の陽気が嘘みたいに、空気は肌寒い。夜の中にまだ冬は残っているのだ。日が昇れば春になり、暮れれば冬。季節の変わり目だからこその、ある意味では贅沢な時期かもしれない。

「あれ、一番星かな」

 歩みを止め、夜に染まりつつある空を指して、井上は言った。

「どうだろう。でもそう思うならそうなんじゃないかな」

 星のことなんてあんまり判らないので俺は大雑把に答えた。

「なるほど」井上はそう呟いて歩き出した。

 公園には誰も居なかった。ベンチやブランコや滑り台が、近くの建物によって夕日が遮られ、一足早く降りてきた夜の帳の中で、もの悲しく佇んでいた。いつの間にか照明が蛍光灯からLEDに取り替えられていて、そこから発せられる無機質で真っ白な光が周囲を白々しく照らしていた。

「ここが、香奈が昔遊んでたところ」

 井上は感慨深げに公園を見回した。大切な宝物を確認するみたいに、丁寧に端から端へと視線を巡らせている。俺は少しだけ彼女から離れて、公園の道路側の外縁に設えてある植え込みの、レンガの上に腰を下ろした。夏には青々とした葉を茂らせる、なんだかよく判らない小さな枝だらけの植物も、いまはまだ冬枯れのままで、剪定もされているようなので邪魔にはならなかった。ちょっとした出来心で背中を預けようとしたら、枝が背中にちくちく刺さって痛かった。

「三島?」

 なにやってんだ、とでも言いたそうな顔で井上がこちらを見ていた。

「これからどうする?」俺は誤魔化すように真面目な顔を作ってそう言った。

「手詰まりだから諦める。週明けに話す。知ったことかと突き放す」

 指を一つ二つと立てながら彼女は言った。

「どれもごめんだな」

「私も。でもどうしようもない」

 そう言って井上は俺の隣に腰を下ろした。

「昔の香奈、ってどんな子だった?」

 彼女の視線の先には、ゴールポストの絵が描かれた壁があった。

「あそこで一人でボールを蹴ってた。寂しそうに。だから声をかけたんだ」

「男の子だと思ってた」

「ああ」と俺は苦笑した。「でもあの頃は、髪も短かったし服装も全然女の子っぽくなくてさ。それにほら、あれくらいの年頃だと声でもあんまりわかんないだろ?」

「私が初めて会ったときも結構ボーイッシュな格好してたけど、男の子だ、とかは思わなかった」

「それはほら、あれだ。うん」

「むしろ、何この子、可愛い、って思った」そう言って井上は懐かしそうに夜空を見上げた。「けど笑わなかった。まるでこの世界から楽しいことの一切が、夕日と一緒に消えてしまったみたいに、暗い顔をしてた。でも、夜空に星が浮かぶように、香奈の沈んだ表情の中に綺麗なモノを見つけた。私はそれが何か知りたくて、話しかけるようになったの」

「井上から声を掛けたんだな」

「意外?」

「ああ」俺はうなずいた。

「こう見えて、小さい頃はもっと活発だったの」

 そういえば、そんなことを夏井が言っていたな。どこか自嘲しているようにも見える横顔をぼんやりと見つめながら、俺は昨日のことを思い出していた。

「三島と遊んでたころの香奈は、どうだったの?」

「三人一緒に馬鹿やってぎゃーぎゃー喚いていたよ。だから正直あんまりイメージが湧かないというか」

「きっと、それが素なんだと思う。私と会ったばかりのころが異常だっただけ。色々あって元気を取り戻した後は、あっという間にクラスの人気者になって、高学年になる頃には学校中のアイドルって感じだったから」そう言って微笑む顔に、陰りがさした。電灯が作り出す白々しい陰によるものではない。何か腹の中に隠している。そんな表情に思えた。公康が言った憶測が脳裏をよぎる。彼女の闇はきっとその陰りの奥に潜んでいるのだ。けれどいまはまだ、そこへ踏み込む勇気も覚悟も俺にはなかった。だから見ないふりをした。

「それで、これからどうする? すっかり当てが外れた訳だけど」

 俺がそう訊ねたのと同時に、井上のスカートのポケットから耽美な感じのBGMが流れ始めた。井上は「ちょっとごめん」と言ってスマホを手にして少し離れた所に移動してしまった。話し声が断片的に聞こえてくる。声色や話し方からして相手は夏井ではなさそうだった。パパ、という単語が聞こえたので多分父親からの電話なのだろう。通話を終えた彼女は戻ってくるなり、「さっきの質問だけど」と言って俺を見た。

「どうする?」

「諦める」

 あまりにもきっぱりとそう言い切ったので俺は二の句も告げずに呆然としてしまった。

「私の予想も三島の予想も外れた。それじゃあもう、全然予想外のところにいるはず。だから二人で探すのは効率が悪い。諦めるのは癪だけど、どうせ夜には家に帰るだろうから、明日の朝、家まで行って会いに行く」

「居留守使うんじゃないか?」

「大丈夫。明日は香奈のお父さんが家に居る。うちのパ、お父さんに確認してもらったから。友達なの。親同士が」

「そういえばそうだっけ」

 うなずきながら俺は別のことを考えていた。言わずもがな、こいつ家では父親のことをパパって呼んでるんだな、という新たな発見を吟味していたのである。違和感はない。そもそも今日だってゴッテゴテのゴスロリのワンピースを着てきているのだ。それでパパと呼ぶのを恥ずかしがるのはそれはそれでちょっとミスマッチ感はあるかもしれない。

「なに?」と井上が赤い顔で睨んでくる。夕日は沈んだし、寒さで赤らんでいるにしては赤すぎる。

「俺は別に気にしないぞ。むしろそっちの方が可愛いんじゃないか?」

「……そう?」

「いいと思う」

「わかった」そう言って井上は一度うつむいてから顔を上げる。ヘッドドレスのフリルの揺れはきっと彼女の動揺なのだ。それが収まるのと同時に彼女の視線が定まって、俺をまっすぐに射貫く。やけに覚悟と自信に満ちたその表情に俺は何故か不安になって一歩後退る。

 ゆっくりと彼女に右手がこちらに差し出される。

「手」

「手?」

「三島の家まで、手をつないで、歩きたい」

「まあそれくらいなら」

 覚悟完了、という顔をしていた割にはかわいらしい要求だったのであっさり頷いてしまった。しかしよく考えたらこれ、行けるかも、と思わせて実際に行けてしまったという展開ではないだろうか。

 そんな訳で手を繋いだまま俺たちは公園を出た。隣を歩く横顔を見てみるととても満足げである。それでいて繋いだ手はちょっと力み過ぎではなかろうか。

 道中は静かであった。井上は満足そうにニコニコしているばかりで何も話さない。まるで言葉を発すると解けてしまう魔法を掛けられているみたいだ。少々手がしびれてきたような感じがするけれど、それを言うのは野暮だろう。手を繋いでいいと言ったのは自分なのだ。そこはしっかり責任を持たなければならない。

 家の前まで着いたところで俺たちは手を離した。井上の方から「ありがとう」と言って手を離した。俺は左手を腰の後ろに隠して、握ったり開いたりしてしびれを紛らわさせた。

「優衣ちゃんに声かけてから帰る」

 そう言って彼女は俺に着いて家の中に入った。

 客間では中里が横になったままスマホを弄っていた。

「あぁ、お帰りなさい」と気怠そうに彼女は言った。「お二人で、どこ行ってたんです?」

「ちょっと人捜し」と井上は答えた。

「ああ、それって、夏井先輩ですか?」

「うん。でも、どうして?」

「なんとなくです。いえ、その、思い当たる節がありますから。後ろめたさと言いますか」

「そう。まあ反省してるようだし、これ以上は言わないから」

「ありがとうございます」

「でも、次はないよ」

「肝に銘じます」

「そうだ。優衣ちゃん、香奈どっかで見なかった?」

「先輩と会うちょっと前に」と中里は俺の方をちら、と見てから「ファミレスに入っていくの見ましたよ?」



 続く

お久しぶりです。

近頃はすっかり真夏で、地獄のような暑さでありますが、作中はまだ晩冬、書いていると冬が恋しくなります。前々回くらいから登場した中里嬢ですが、彼女は攻略対象外です。悪しからず。あと、前話の文章がちょっとあれなので近日中に手直し入れます。

ちなみに今回遅くなった理由は、小規模なスランプとPCのトラブルとかです。無事、3700XとRX5700とX570マザーボードの環境に移行することができました。ゲームあんまりやらないのでほぼ宝の持ち腐れですが。それでは、次はお盆前くらいに


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