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6 優しいおばさん

「…………」


衣服も体も汚れ、得体も知れないこんな私に話しかけてくれたのは、優しそうなおばさんだった。


でも、今は国王から追われている身という状況の私と話をすると迷惑をかけてしまう。


あぁ、美味しそうな果物がある。


鼻をくすぐる甘くていい匂いのする果物を見ているときだった。


グウゥゥ、きゅるる。


と、私のお腹がなってしまい、両手でお腹をおおったが、恥ずかしさのあまり声が漏れてしまった。


「あっ!(やだ、恥ずかしい!)」


「ふふふ、お腹は正直だね。


これから夕食にするけど、お嬢ちゃんも一緒に食べてくれるだろう?」


お腹がすいていたのもあり、思わずコク、コク、と頷いてしまった。



出店のフルーツを室内に入れるのを手伝い終わると「ありがとう」と、おばさんに感謝され、桶と拭く布を裏口から出たそばにある井戸水を桶の中に入れてくれた。


「夕食の準備している間に、体と髪を洗っちまいな」


「おば様、ありがとうございます。


有難く使わせていただきます」


「いいんだよ。困っている者には手を差し伸べろ!って、亡くなった旦那が言っていたんだよ。


私はロラ。お嬢ちゃんの名は……聞かないでおくよ。


8年前にも同じ状況の少年を助けたことがあるんだよ。


訳ありで誰にも言えない理由があるんだろ?」


コクリと頷き、震える声で話せないことを告げた。


「ごめんなさい、話すことが出来ません。


名前や今までのことを気軽に話してしまえば、私の心は少しだけ楽になるかもしれません。


でも、話を聞いてしまったら、おば様に迷惑をかけてしまうんです」


おばさんは顔を横に振り、私の目線に合うようにして屈み。


両肩に『ポンッ』と、手を置いた。


「話さなくていいんだよ。こんなに痩せちまって……一日だけ泊まって行きなさい」


「あ、ありがとう、ございます……っ……」


声を殺し、涙を流しながら髪と体を洗った。


おばさんの前だから魔法が使えないのよね。私一人なら「クリーン」の言葉で終わるんだけど。


夕食は、一切れのパン、果物、温かくて美味しいスープ。


こんなに沢山の食事を食べたのは何年ぶりだろう。


食べたあと、おばさんのお手伝いをしようと思い、食器を水場まで運んだ。


誰かと一緒に食器を洗ったことなかったけど、話しながらの水仕事が楽しいと感じたのは、今日が初めてだった。


「お手伝いをしてくれてありがとう。


助かったよ。それじゃあ、一緒に寝ようかね。


誰かと一緒に寝るのは久しぶりだよ、隣りに誰かがいると暖かいもんだねぇ」


おばさんは私の手を握って、優しくさすってくれた。


「ぅん、暖かい。


おば様、ありがとうございます」


心も体も暖かくて、おばさんの優しさに感謝した。


夜中にこっそりと、暖かい毛布・野菜類・タオルを隅に置いた。ココなら私がいなくなった時に見つけてくれるだろう。



翌朝、日が昇る前におば様にギュッと抱きしめられ、名残惜しいがお礼と挨拶を済ませた。


「おば様、ありがとうございました。


お身体に気をつけて」


「あぁ、こちらこそだよ。


無理をするんじゃないよ?


行ってらっしゃい」


私はとびきりの笑顔で振り向き。


大きく手を振り、元気な声で「行ってきます!!」と告げた。



おばさんがいる街から駆け出し、先を急いだ。



猶予はまだあるが、周りが気になって仕方がない。


あと6日、これからは気を引き締めて移動しないと。


あの国王のことだから、きっと追っ手を放つはずだ。だから、木の上に隠れながら国境まで行かないといけない。


スゥゥゥゥゥゥッッ!


「はあっ、まだだよねぇ…」


こんな山道を5歳児が歩けるかっつうの!


んっ? 確か国境までは、健康な子供の足で2ヶ月、大人の足で1ヶ月はかかるとお父様がお兄様に話していたのを思い出したような。体が硬直したかのように動かなくなった。


今の私の足だと2ヶ月以上はかかってしまう。普通に歩けばね……。


国王はそのことを分かっていたから、1週間だけの猶予と言ったんだ。


最初から殺害されることが決まっていたんだ。


今さらこんなことに気付くなんて、私の馬鹿!


バカバカッ!!


「はあぁぁ……」


大きな溜息を吐き、思考を戻した。



考えてても仕方ない。



移動を早めるしかない。それに『1日でも早く国境を越えないと』という不安と焦りが、脳内に入り混じっている。


さっきからずっと、後ろを振り向き様子を伺いながら、先を急ぐの繰り返しだ。




日も沈み、暗くなってきたな。




今日はこの辺で野宿。キャンプとかの経験はあるから野宿も平気だけど、ある事が出来ない。


それは、火が使えないということ、うぅん、使えないって言うより使っては駄目が正しいかな。


火を使えば煙で『私はここにいます』って教えるようなものだから。


「マロン、ご飯にしよう」


木の枝で見守ってくれている従魔に声をかけ、ロラおばさんに貰ったパンと果物を一緒に食べ、茂みを探していたが。


マロンに案内された場所を見ると。


何だろ、穴?


子供が2人くらい入れる洞穴がある。


その洞穴の前には茂みがあり、隠れるには最適な場所だ。


「先客の魔物は……いない、良かった。


雨風がしのげるだけでもラッキーだよ」


明日に備えて寝ないと。


今日はベットが出せないから、ふかふかお布団で寝ようと思ったんだけど、身体が疲れすぎて、なかなか寝付けない。


こんな時は、温かくて甘いホットミルクがあれば眠れるのにな。


「ホットミルク出ろ。温かい、コクリ……美味しい」温かいミルクも飲んだし、今はマロンが首元を暖めてくれてるおかげで直ぐに眠りについた。






その頃、ルルナを探している二人組の騎士も少しずつ近づいていた。

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