『外伝』092.役目を果たした身代わり守り
馬車の方からユウリさんが小走りでやってくる。
「大吉さん。。。!!」
その後ろの方から、達磨頭取とタイラが何かを話しながらこちらに向かっている。
「ごめんなさい!!藍華さんは私を守ってあんなことに。。。!」
悲痛な顔に大吉はふわりと微笑みながら返した。
「それこそ俺たち護衛の本業ですよ。藍華は胸張ってると思います。。。」
ユウリはポロポロ溢れる涙を拭きながら
「これを・・・」
手渡されたそれは。
先程フェイの一発でヒビが入ってしまった身代わり守りと同じタイプのものと、敵意レーダー。
『短くなっちゃったんで、コレは私のにします』
藍華がそう言って自分の手につけていた物だ。。
頭部を守護する天然石ビーズがなくなって、その部分が千切れている。
「・・・頭・・・殴られたのか・・・」
身代わりになってくれるとはいえタイムラグがある。
衝撃、痛みは避けられない。
自身が殴られるよりも痛い気がするのは気のせいではないのだろう・・・。
会ってたった数週間の付き合いでも、それだけ大吉の中で藍華の存在が大きくなっていたのだ。
(大丈夫だ。しっかり身代わりになったからビーズが割れて、その衝撃で編んであった糸が千切れたのだ。
痛みは受けても怪我はないはずだ・・・)
「身代わり守りの石が割れ飛ぶほどの衝撃を藍華さんは・・・」
(やっぱり藍華は良くやった。。。
俺のと同じくらいの石が使われていたならクラックの入っていない質的には最高のもののはずだ。。ユウリさんが殴られていたなら、どうなっていたかわからない。。)
握りしめ、それを懐に入れる。
「大丈夫です。きっと。身代わり守りはその役目を果たしています。藍華も無事ですよ。ユウリさんも無事でいてくれてありがとうございます。」
声に出すことで、自分を言い聞かせている感も否めないが。
そうしているうちに達磨頭取だけがこちらにやってきた。
「大吉さん、話はユウリから聞いた。商隊としては全力で藍華さんを取り戻したいと思っている・・・。
盗賊の要求を全て飲むことは難しいかもしれないが。。。」
申し訳なさそうに言う頭取に、感謝こそすれど怒りは感じない。
それよりも己の不甲斐なさの方が怒れる。。。
護衛が1人拐われたくらいで盗賊なんぞの言うことを訊いていては商売は成り立たない。切り捨て、先に進むのがこの世では普通だ。
(当然だ。それでいい。)
「そのことですが───少し隊を離れることを許可頂けますか?」
大吉の言葉にフェイとアグネスは嬉しそうにしながら聞いている。
「助けに行くのか?」
達磨頭取の言葉に即答する大吉。
「はい」
「いいだろう、というかその方がこちらとしてもありがた」
「お父さん!!」
正直な達磨頭取、娘ユウリに嗜められる。
「よし、じゃぁあたしもー」
アグネスの顔の方に手のひらを向けて、
「俺1人だ。」
「なんでだよ?」
ブスッと不機嫌に言うアグネス。
「あの状況で。藍華は拐われたんだ。護衛全部が盗賊達と対峙していたはずのあの状況で。
俺も常に全体を見れていたわけじゃない。だが盗賊が馬車に近づいたなら気がつけると思わんか?」
「内通者がいるってことか」
フェイの言葉にアグネスも達磨頭取も表情が引き締まる。
「達磨頭取、貴方とユウリさんは大丈夫と思ったのでお話ししました。他の者には内密に。
おそらく大きな襲撃は2、3日は無理です。」
「なぜそう思う?」
フェイの問いに
「あの盗賊の頭が最後に使った転移のアーティファクト。かなり特殊なもので、まず普通の盗賊が持ってること自体がおかしいんだが、アレを使用すると、
術師は24時間程眠りに落ちる。」
あんな特殊なアーティファクトは2、3しか知らない大吉だったが、そのどれにも当てはまる特徴はよく覚えていた。
不便そうだが、そんなものが使える場面もあるかも知れない、と。
「目覚めても動けるようになるまではもっと時間がかかる。24時間後ならば目が覚めていると、絶対の自信があるようだったから、もしかしたらもっと早く目覚めてるかもしれないが、普通に動けるようになるには、特に戦闘とか体力のいることをするには1、2日はやはりみないといけない。
24時間後に交渉と称した連絡を取り、動けないことを悟られないよう、その1、2日後にもっと先の進んだあたりで───という筋書きでくるはずだ。」
だから動くなら今すぐだ。
腕の立つものは数人いるようだったが、あの盗賊団は頭が中心にうまく回っているようだったから。
「だから、俺が行っている間にここの守りを頼む。そして炙り出せそうならやってくれるか?フェイ、アグネス」
「いいだろう。調子が戻ったみたいで安心したしな。」
怒りに呑まれて突っ立ってたのは確かにコレまでの自分らしくはなかったしアレなんだが。
それも自分なんだよな。。と改めて認識した大吉だった。
「しょうがねぇな。そのかわりしっかり王子様してこいよ?」
にししし、というアグネスに。
再び耳まで真っ赤にしながら言う大吉。
「この歳で何が王子だ。。。!」
(こいつに知られたのだけは。。いや何か感づかれたのは痛い。。。
これから先ずっとからかわれる気がしてならない。。。)
盗賊の頭が置いていった通信用アーティファクトを達磨頭取に渡し、
「この先に小さめですが湖があるのをご存知ですか?」
大吉の言葉に頷く達磨頭取。
「そこで待ち合わせとしましょう。とにかくここはできるだけ早く離れたほうがいい。」
「すぐ行くのか?」
アグネスの問いに、
「早く助けてやらないとな。」
開き直って恥ずかしげもなく言う。
「わかった。じゃぁ移動を開始しよう。」
「頭取、すまない。恩に着る。。」
馬車の方に向かいながら右手を上げて答える
「こっちこそ、だ。」




