083.聖水の小瓶
「そうなると───敵は50メートル以上遠くからこちらを見張っているってことですかね。。?」
「炎を操ったりするアーティファクトはそこまで遠くからは扱えない、というのが通説だ。。
が、それが可能なのか、もしくは敵意レーダーに反応しなくなるようなアーティファクトがあるか。
両方の面から考えないといけないな。」
大吉さんは道具に、アーティファクトに頼りきる、ということがない。常にいろんな方向から考えている、というかなんというか・・・
こんな便利な物があるのに、そういうのってすごいと思うのだ。
その日の野営の場所は草原地帯に入ってしばらくした所だった。
草原地帯の後にまた森林地帯に入るらしく、しばらく木の影の獣に怯えることはなさそうだ。
幸い水場のところまでたどり着けたので、血抜きの終わったクマを皮を剥いで切り分けるところまで終わったようだ。
「達磨頭取、あとは冷蔵しながら持っていってむこうで処理を頼んでいいか?」
「おうよー!今食べる分をのぞいて、な。」
今晩の料理担当は頭取だそうで。
ワイルドな肉料理となった。
警備順番は肉処理のこともあったので1番最後に回してもらった。
警護1番手のフェイ、アグネスが戻ってくると、
「おー、2人とも、飯の前にちょっといいか?
藍華はゆっくり食べて待っててくれ。」
食事スペースから少し離れたところで立ち話を始めた。
会話は聞こえないが、例のことを話しているもよう。
護衛チームは若い2人が先に警備に立ち、リーダー耕助さんが頭取と話をしている。
残りの2人が食器等の片付けをして警護に向かう。
護衛チームは深夜の警備時は定期的にキャンプの周りを2人組で1周しているようで、先程順番を決めていた。
「じゃぁ俺から頭取に話しておく。お前たちはゆっくり飯食ってくれ。」
という声が微かに聞こえて、視線をそっちに向けると大吉さんが小走りでこちらに向かっている。
「藍華、ちょっといいか?」
そう言って顔を近づけてくる。
はねるな心臓。
耳元で
「監視者がいるようだ、ということだけ伝えることになった。アグネスは炎を操るアーティファクト使いがいる可能性を示唆していたから、そこはお前を頼るように言っておいた。
そこで───これを持っておけ。」
そう言って手渡されたのはおそらく紫水晶でできた小瓶がネックレスについている。
中には何やら液体が入っているようだ。
「フェイのものなんだが、お前が持ってる方が使えるだろう、と貸してくれた。中に水が入ってる。」
沈む日にかざすと、とても綺麗に輝く一品だ。
「アグネスの火のアーティファクトと対になるように、何かあった時のために持ってるやつだ。」
「これもアーティファクトなんですか?」
ただの小瓶かとも思ったが、表と裏におそらくレジンで飾りが付いている。
「あぁ。発動するとコップの水を酒に変えれる超級の一品だ!」
ものすっごい目をキラキラさせて言う大吉さん。
好きなんだ、お酒。飲んでるとこ見たことないけど。
「藍華のアーティファクトの説明を、少量の水からもいろんなことが出来るって説明したら、この仕事が終わるまでよかったら役立ててくれといって渡された。」
「なんか申し訳ないですね。。」
水がないところでも使えるのは口外しない方向で、ということなのでしょうがないが。
「あとでわたしもお礼しときます。」
「そうしてくれ。じゃぁちょっと頭取のとこに行ってくる」
そう言って今度は達磨頭取の方へ向かう。
護衛チームには後程話すのだろうか・・・?
頭取に報告してからみんなに伝えるかきめるのかな。
クマ肉って結構美味しい。
次は是非シチューとかでも食べてみたい。
新鮮肉のステーキを噛み締めながら頭の中は色々な事柄が駆け巡る。




