006. 引き出す力と込める力
「……破壊……?」
この、コーヒーカップを……? と、真面目な顔をして、陶器でできているらしいカップと大吉さんを交互に見てしまう。
「“想いの力”とでもいうのか、そういったものがこの時代の人間はストレートに出てるんだろうってことだ。そして藍華のいた時代の人間は“想いを込める力”が強い」
想いを込める力…………
「ところで、藍華は『ハンドメイダー』なのか?」
「わたしは───そうですね、一応。ただ、“好きで作ってる”ってだけですけどね……」
仕事の合間にちょこちょことやっているハンドメイド。給料の大半をつぎ込むくらいにはハマっているけれど、自分は作りたいから作ってるだけで、販売に関してそこまで真剣にやろうと思ったことはなく。
イベントにも、誘われはしたけれど……まだ出たことはなかった。
自分の作りたいものを、何のしがらみもなく自由に作りたい。
ただそれだけ───
「クゥさんみたいに販売してるわけでも、“誰かのために”とか思って作ってるわけでもないですから……
想いがこもっているのかどうかと言われたら…………“よくわからない”が本音です…………」
いつだったか、誰かに言われた『自己満足の塊』というわたしの作品に対する批評が。ずーっと胸に、棘のように刺さっている……。
「……好きで作っているなら、それで十分だと思うがな。
俺なんかは生活の為に作ってるし」
わたしの言葉と表情から何かを察したのか、言葉をかけてくれる大吉さん。
少々冷えた心に、僅かに温かみを感じた。
「あ、大事なことを聞き忘れてた」
「なんですか?」
「元の世界へは戻りたいのか?」
「元の世界…………」
聞かれてはじめて気づく。自分がこの状況をあまり不安にも思っていないということに。
正直わからない──
自分を心配してくれるような家族という存在はそもそもなく、それなりに気に入っている一人暮らし。SNS繋がりの友人達と連絡が取れなくなるのは少々さみしさを感じるけれど……仕事はブラック気味で。けれど、自分の力で生活できているという充足感、そしてハンドメイド──
「……わかんないです……」
向こうに大事な人も特にいない。大好きな漫画や小説を読めないのが辛いけど、それらでは味わえないモノが、確実に、この世界にはあるだろう。
何よりアーティファクトと呼ばれる物に、興味津々。
「必死になって帰らなきゃいけない理由はないです。特に心配してくれるような人もいないですし……。
もし帰れる方法が見つかったならば、帰る、かもしれない。でも積極的には探さない。
で、いきたいです。もちろん、私のハンドメイドがお役に立つなら、っていうのが前提なんですが…………」
だって……
だって、なんの役にも立たず食い扶持が増えるだけって。
大吉さんの負担にだけはなりたくない……。




