004. ここは一体どこなのか?
着いたところは商店街を少し進んだところ。古びた感じの建物がいい雰囲気を醸し出していた。
「ここだ」
喫茶『碧空』
この名前……!
「……良い名前ですね…………」
思わず口から出た。
「サンキュー」
カランカラン、と心地よい音をたてるドアベル
「おじゃましますー」
入った瞬間に感じるコーヒーの良い香り。
内装もシックでいい感じ。めちゃくちゃ好みだな、と見回すと。薄暗い店内の喫茶スペースの横、ほんわりと微かに明るいスペースが目に止まった。よく見るとハンドメイドのような物品の置かれているスペースがあるではないか。
めっっっっっちゃ気になる……!
「コーヒーは飲めるか?」
店内をガン見しているわたしを横目に、話し出す大吉さん。
「はい、大好きです……」
「じゃぁ、淹れるから、そこに座ってくれ」
促されるままカウンター席に座り、ひとまずリュックを膝に乗せる。
「質問したいことがあるんだが──軽く自己紹介等しておこうか。
現在は再生の日より一七〇年経つ二二二〇年。俺の名前は大吉。二一八五年生まれで三十五歳だ」
「再生の……日……? 二二二〇年…………」
軽く混乱するわたし。大吉さんは手際よくコーヒーの用意をはじめながら話を続けた。
「再生の日っていうのは、地球におきた深刻な災害のこと。だが、何が起きたのかは記録もろくに残っていないので誰も知らない。暦学者たちは隕石とか大規模な地殻変動とか言っているが」
自分は遠い未来の世界に来てしまったということなのか。
それにしては、何か違う感じのするこの場所はいったい──?
「で、自己紹介に戻るが、俺の職業はこの喫茶店のオーナー。副業でアーティファクトの探索修理とアーティファクトの複製品、レプリカ製作と販売もやっている。販売品はそっちのスペースにあるのがそうだ」
大吉さんの話す声に、ひとまず現状把握をちゃんとしようと、自分の思考の世界から戻り、彼の話した内容を考えてみる。
アーティファクト。なんだか仰々しい名称がついている、ということは、ただのアクセサリーではないということかしら……?
「なんでこんな自己紹介をしたかって言うと、あんたからは過去出会った“ある人”と似たような雰囲気と香りがしたからだ……。違ってたら言ってくれ。多分あんたは二〇一七年からそう遠くないところから来たんじゃないか?」
二〇一七年は去年。近いと言えば近い……のかな……?
「わ……わたしの名前は藍華一九九三年生まれで二十五歳、二〇一八年の五月から来ました」
「やっぱりだ」
ふわりと笑顔になる大吉さん。
「ここに来る直前、何があった?」
「暴走車にビックリしてマンホールに落っこちました…………」
「なるほど……原因はわからないが……落ちた時、この時代に飛んだんだろうな」
本当に。一体全体、どんなファンタジーだ。マンホールに落ちて、飛び出たらそこは遠い未来でした。って……。
「戻る方法を探すにも、何をするにもしばらくこの店の二階に滞在するといい。生活するのに足りないものがあったら一緒に買い出しに行こう」
するすると出てくる、わたしに協力するという彼の言葉に、不信感は感じない。
感じないけれど、聞かなければ──。
私は、カップを用意する大吉さんの顔を見ながら口を開いた。
「あの……なんで───」
良く知りもしない、会ったばかりの小娘 (って年でもないけど)に、そんなに親切なのか。何か他に目的があるのか──。
「なんでそんなに親切にしてくれるんですか?」
「────」
少し困ったような顔をして私を見た大吉さんは、湯の沸いたポットに視線を移し、それを持ってドリップにゆっくりと注ぎはじめた。
「───約束したからだ。
以前ここにきた、君と同じくらいの時代から来た人と。もし同じような境遇の者が来たら、男でも女でも、子供でも年寄りでも。助け手伝い、導いてやってくれ、と──」
コポコポという音が響き、お湯がゆっくりと落ちていく。
「彼女には多大な借りがあるんだ。そっちのアーティファクトの販売品、ほとんど俺が作ったり修復したりしてる物なんだが、それの技術を伝授してくれたのも、その人だ。
あとは……ただ助けたかった。じゃぁダメか……?」
そう言って私を見る、困ったような笑顔に“かわいい”と思ってしまう。
「全然OKです…………」
思わずうつむきながら、私はそう答え。一息おいてからしっかりと大吉さんの目を見て言った。
「でも、全部お言葉に甘えるにはいかない気がするので……自分も手伝えそうなことはやらせてください。
そちらの……アーティファクト? の修復とか、方法を教えていただければぜひやってみたいです」




