003. 間に合わなかったけど、良い人
「な……なにしやがったてめぇ⁉」
驚愕の顔をしつつ、乙女系ロングネックレスの男が殴りかかってきた。
「‼」
思わず目を閉じ両の手をクロスさせた私は、足を踏ん張り、来るだろう衝撃を待つ。が、大した痛みもなく、軽く殴られたの? と思って恐る恐る目を開けると……
「ぐおあああああああ⁉」
殴りかかってきたはずの男が、手を庇うようにしてぴょんぴょん飛び跳ねている。
「……?……」
わけもわからず、とりあえずファイティングポーズをとる私。
「貴様! なにしやがった⁉」
短髪の男がさらに飛びかかってきたその時、
「大丈夫か⁈ お嬢ちゃん! 大吉さんこっちだ、急いで!」
はじめに声をかけてきてくれたおじちゃんが誰か応援を呼んできてくれたらしい。けれど──
「んだりゃー!」
ファイティングポーズをとっていた私は、とりあえずストレートパンチを繰り出してみたよね。
「ぐっほ…………‼」
パンチは見事に男の左頬にクリーンヒット。
そして弧を描いて飛んで行く短髪男。
「「「……⁉」」」
それを、大吉と呼ばれた人がとっさに動いて受け止めた。そうでなかったら、おそらくはじめに声をかけてくれたおじさんに衝突していただろう。
おじちゃんが連れてきたその人は、無精髭のせいで少し老けて見えるけど、三十前半だろうか……渋い系のイケメンだった。ゆるい天然パーマを後ろで一つにまとめていてるようで、肩からその毛先が少しのぞいている。カーキ色のエプロンの下には黒いシャツに、インディゴブルーのジーンズを履いていて、腰の両サイドからのぞいているウォレットチェーンが何故だか気になった。
「大丈夫か⁈ じょうちゃん!」
おじさんの声に何とか反応を返す私
「……はい、何とか……」
連れ込まれた裏路地で、チンピラ三人返り討ち。“何とか”じゃないよねこの惨状……?
言いながら私は心の中にて突っ込んだ。
「あの……ありがとうございます助けに来てくれて……?」
そのためにここに来てくれたのだろうから、出てきた言葉ではあったが。いまいちしまりがないのはしょうがあるまい。
「いや、要らぬ世話だったようで……」
そう言いながら大吉さんは、短髪男を壁の方で倒れているパンク系ブレスの男の上に積む。
そして、未だに痛そうに手を庇っている乙女系ロングネックレスの男に話しかけた。
「おいカルマ、こんなこと続けてんだったらうちの店には二度と入れないぞ!」
カルマと呼ばれた男はビクッと肩を震わせ、バツの悪そうに俯きながら答える。
「……へぃ……」
大吉さんは、私を一瞥すると
「嬢ちゃん、とりあえず来な」
そう言って手招きした。
「……はい……!」
縮こまっているカルマを横目に、スタスタ行ってしまうその人の後を追う。
「じゃぁ大吉さん、わしはここで。カミさんの頼まれ物買いに行かないといかんでなー。」
「おじさんもありがとう!」
またなーと手を振り去っていくおじさん。
這い出てきた(?)マンホールのある大通りをしばらく戻り、マンホール手前の細めの道を曲がってしばらく行くと、そこには良い感じに古びた商店街が広がっていた。
「こっちだ。ちょうど修理の依頼で大通りの方にいたんでな。
間に合って……間に合ってないがとにかく無事で良かった」
何この人。メチャいい人……?




