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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第二部 一章 寺院の修復とその裏で動く影
343/343

342.陥没現場のその後と戻ってくる平穏な日々

「そういえば、陥没現場の方はどうなってるんだ?」


 大吉さんはそう言いながら、それぞれの空になった器に二杯目を注ぎ足す。


「――それがだな……」


 わたしも気になっていた陥没現場の現状について。続く喜光さんの言葉に、わたしも大吉さんも耳を疑ってしまった。


「何だって? アイツの親父さんが来て、ここに

 へ来る直前に終わった……⁉︎」

「あの陥没現場がですか……⁉︎」


 修復は一時休止かもしれないと思っていたのだけれど――


「あぁ。調書の後、警察の連絡システムを使用させてもらって状況等話したらな……。

 成人しているとはいえ不詳の息子のしでかしたこと。責任取らずして何が親だ、と言って」


 喜光さんは苦笑しながら、けれど少し楽しそうに話した。


「ナラにいたのに、二日前の夕方には協力者を二人連れてやって来て。そのまま休みもせず作業に入ったんだ。俺も寝ずに一緒に作業させてもらったが、ついてくのでいっぱいいっぱいだったよ」


 それでなのね……喜光さんの様子が、これまでで一番疲れているように感じたのは……!


 でも、その作業の速度にわたしは激しく疑問を抱いた。


「その作業、アーティファクトを使用したんですよね……?」

「あぁ」


 雷喜さんのお父さんは確か、手作業推奨派だっと……


「雷喜の親父さんは、宮大工の中でもかなりの実力者で、修復系アーティファクトの実力も随一。時と場合によってはしっかり活用し修復業をこなす。今回のように。

 伝統的な技術を失わぬよう伝えるためにも、そちらを重視している節はあるが……」


 そうか……選別しているのね、アーティファクトを使う時を……。


「やっぱり同じだな。いや……宮大工はアーティファクトのマスターよりきっと、もっと厳格なんだろうな……」


 大吉さんがそう呟いた。


「レプリカの技術は確かに大切で重要だが、アーティファクトのように一から手作りされた物にはどうやっても敵わない。

 一から作る技術は必須だし、忘れてはいけない事だ。そのために技術試験もあるし」

「お前苦労してたもんな、マスター試験」


 蓮堂さんがそう茶化すように言うと、大吉さんは「何年前の話だよ」と言って自分のジョッキのビールを半分くらい飲んだ。


「こちらは失われた資材や技術が多いが、宮大工はそれがない。マスター職より厳格になるのも、俺は理解できるよ」

「雷喜さんは……そうは思えなかったんですかね……」


 アーティファクトは確かにすごいものだけれど――


「……人はとかく、楽な方に逃げるものだからな……

 そんな中でもアーティファクトの力の事もよく知り、必要な時にはこうやって使用する雷喜の親父さんには……尊敬以外の言葉が見つからんよ」


 そう言って、大吉さんお手製のお猪口に注がれた日本酒を一気にあおった。


「昨晩もな、ここに連れてこようかと思ってたんだが、作業が終わるまでは現場から離れん! と言って、結局二晩寝ずに作業して」

「ん? じゃあ何で今ここに来てないんだ?」


 もう一杯いくか? と大吉さんが徳利を持って見せると、喜光さんはお猪口を差し出した。

 トク、トクと耳に心地よい小さな音がしてお猪口の八分目までお酒が注がれる。


「今日の昼頃、ナラの方から緊急の連絡が来てて。三人とも作業を終えたその足で新幹線に乗っていったよ」

「…………」


 それまたびっくり。喜光さん以上に体力のありそうな。


「俺等は埃掃除くらいしか手伝えんかったよ」


 そう言って再びお猪口に口をつける。


「そうか……すごい人がいるもんだな……」


 あとはたわいもない話に花を咲かせ、ちょっと飲みすぎたわたしは先に自室へ。


 そして次の日の朝、喜光さんは修復師さん達と共にキョウトの方へと立っていった。

 駅まで見送りに行ったわたし達に「またキョウトに来ることがあったら連絡くれよ、じっくり案内するから」と言って。


「さて。いっちまったな」

「ですね」


 あのクマさんみたいなガッチリとした巨体の喜光さんが、もうこのトウキョウで見かけることがないのだと思うと、少し不思議な感じがした。またヒョイっと突然、店にやってくるような気もするし。


「あ、そうだ。よかったらのぞきに行ってみませんか? あの寺院」

「おぉ、そうだな……ちょうど今日は市も立ってるし。仕入れがてら行くか!」


 そうしてわたし達は、市場へと向かった。

 ゆっくりと、歩いて――

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