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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第二部 一章 寺院の修復とその裏で動く影
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341.知っておきたい

「で……お前達。事件に関わった者として、聞いておくか? 奴らのこととか、諸々――」


 喜光さんのことを気遣ってか、蓮堂さんが、少し言いにくそうに聞いてくる。


「俺は後で……一人ででも聞かせてもらいたい」


 喜光さんが静かにそう言うと、大吉さんはわたしの方を見て言った。


「俺は……藍華に任せる」

「…………」


 任されて、わたしは少し考えた。正直、気にならないと言ったら嘘になる――。


 東オーナーに関しては、知ったからと言って自分に何かできるわけではないけれど……少なくとも二度と子供達の前に現れて欲しくない。


 雷喜さんに関しては……。こちらで最初に出会ったのが大吉さんでなかったら……視えずとも真剣に作業をする大吉さんの姿を見てこなかったら? もしかしたら、自分も彼と同じように考えていたかもしれない……。


 彼等がこれからどうなっていくのか、全てがわかるわけではないだろうけれど、わたしは知っておきたいと思った。


「聞かせてください」


 わたしが意を決して言うと、大吉さんは静かに腕を組んで目を瞑った。すると蓮堂さんは「じゃぁ、まずこれを」と言って懐から何かを取り出し、カウンターに置く。


「これは……天使のカード、もういいんですか?」


 問題がないと判断されたのだろうか。わたしがそれを手に取り聞くと、蓮堂さんは頷いた。


「調査も終わって、市井に流出しても問題はないと判断されたから大丈夫だ。これから先も、彼らと関わっていくつもりなら、お前たちが渡しに行く方がいいだろう」

「はい」


 わたしは迷うことなく即答し、まっすぐと蓮堂さんの目を見る。すると彼は、大吉さんの方も見てから、どこか満足げな顔をして話を続けた。


「じゃあまず、それに関して判明したコトから伝えておこう。

 奴らの言から判明したんだが、このカード“鍵”の出所は、カトレイル教だそうだ」

「――!」


 まさか……キョウトでの事件に――


「奴らと繋がってたのか……!」

「二人はより良い修復系アーティファクトを手に入れるため、いろんな店に出入りしているうちに、知り合ったそうだ」

「雷喜がそういう考えなのは知っていたが……宗次もだとは……な……」


 喜光さんはただただもの哀しそうな顔をしたまま、視線を手に持つお猪口へと向けた。


「アーティファクトの凄さを語り合い、飲み合う仲にまでなって、今回の話を持ちかけられたと証言していたが……残念ながら裏は取れなかったよ」

「もしかして……カードのコーティングが原因ですか……?」


 カードが元の力を失ってなければ、何かわかったかもしれないと思い、わたしは落ち込みながらたずねた。けれど――


「いいや、それは関係ない」


 蓮堂さんはキッパリと言い切った。

 本当? と、まだ不安を感じながら見ると、彼は苦笑しながら続ける。


「どうしてそう言えるのか、話そうか。だがこのことは警察関係者のみが知る機密事項だから、藍華さんもそのように頼むよ」


 そう言われると、急に緊張してきてしまうけれど。わたしは一呼吸だけおき「もちろんです」と答えた。


「警察の検査機関には、キョウトにて数年前に開発された特殊な鑑定アーティファクトがあって。素材や能力、使用記録といった情報を読み取ることができるんだが、そのカードには使用記録が残っていなかった」


 何そのすごい鑑定アーティファクト。


「もしコーティングが原因で情報が消えたのなら、以前の能力である『何かの鍵』も消えているだろう」

「そうですか……」


 そう呟きホッとすると同時に。使用記録が残っていなかった、ということが気になって、とたんに心のどこかに冷たいモノを感じる。


 自分の中で何かが繋がる感じを覚え、それに連なる“聞けていなかったこと”をわたしは思い出した。


「そういえば……喜光さんにお聞きしたいことがあります……」

「なんだい?」

「未使用アーティファクトの光の色は基本、黄色などの暖色系ですよね?」


 調書の時、未使用のアーティファクトの光が視えることは話したけれど、色の話まではしていなかった。


「あぁ。そうだ」

「あの東オーナーの持つアーティファクトは青い色をしてたんです。それに何か意味はあるんでしょうか?」


 調書の後、思い出して大吉さんに聞いたけれど、知らないようだった。


「青い光――」


 喜光さんが、何かを思い出すように左手を口に当ててそう呟く。


「そのカードの光が、黄色から青へと変化する瞬間も見ました。

 突拍子もない話だとは思うんですけど……。もしかしたらその時、アーティファクトはそれまでの記憶……蓄積されてきた情報を消されてしまったのでは、と……」


 さっき胸に感じた冷たいモノ。それは記憶が消されてしまうと思ったあの時と、よく似ていたから……


 大吉さんも蓮堂さんも真剣な顔をして黙ったまま、しばらく沈黙が流れる。すると喜光さんは難しい顔をして言った。


「……子供の頃に一読しとけと言われた特殊能力の古い資料で、読んだ記憶がある」


 視える能力、古の巫女、そして雷喜さんのような能力と……。人の持つ特殊な能力はまだ色々あるのだろうか。わたしは喜光さんの話に聞き入った。


「これまでに一例しか発見されていないそうだが。アーティファクトに青き光を持たせた者は、犯罪に使われたアーティファクトを修復していた、と――」

「修復……?」


 わたしが想像していたのとは違うイメージの言葉を聞いて、驚き聞き返してしまう。


「犯罪に使われたアーティファクトというのは、力が落ちる。原因は究明されていないが、神社仏閣の力ある者へと預け、祈祷などをして、そのパワーを回復させてもらうんだが……」


 巫女さんやお坊さんは、そんな役割まで担っているんだ、とわたしは驚愕した。


「その者は手にするだけで、アーティファクトの力を回復させていたと、記録にあった」


 喜光さんの言葉に、大吉さんがさんが呟くように付け加える。


「藍華の話と照らし合わせて考えると……力が落ちる原因が『罪悪感』で、その記憶がなくなれば、それまで通りの力が出せる……っていうことじゃないか……?」


 確かにそう考えると……起きている事象は同じ――


「なるほどな――どこまで調べられるかわからないが、報告は上げておこう」


 そう言って蓮堂さんはメモ帳を取り出し書き込んだ。


「で、東の刑期はどうなりそうなんだ?」

「余罪の捜査もあるからなんとも言えないが……少なくとも会社は差し押さえで解体、同じ職には就くことはない。札付きになって、最低限の情報管理がなされる。お前達や子供達に奴の手が及ぶことはないから安心してくれ」


 不安が一つ解消した――。人間の管理することだから、絶対とは言い切れないだろうけど、少なくとも警察がそのように動いてくれるのなら……。


「じゃあ――残りの二人、雷喜さんと宗次さんは――?」


 わたしがそう聞くと、蓮堂さんはメモを閉じて言う。


「判決はまだ先のことになるが、警察からの求刑は実刑十年、免許の剥奪。だが……これまでの功績とそれぞれの持つ能力により、減刑はありうるだろう、ということだ」

「十年でも足りんくらいだ。例え才能があろうとやった事の責任はちゃんと取らなきゃならない。

 要ではないにしろ、結界の一部を担う神社にあんなことをしたんだからな……トウキョウ全体の存続に関わる、重大な犯罪だ」


 トウキョウの結界。それはわたしが想像しているよりも、重要なものらしい。そう二人の会話から感じる。


「さすが特殊部隊……厳しいな」

「当然だ。今の警察はちと甘すぎんか?」

「さぁな。俺にはわからんよ。俺の仕事は捕まえるまで、だからな」

「それを言ったら俺も。捕獲が専門だ」


 苦笑しながらそう言うと、ふっと厳しい表情をしてから蓮堂さんを見つめた。


「奴等に伝えておいてくれ。出てきた時は覚悟しておけ、と――」

「……了解した」


 蓮堂さんは、その視線をしかと受け止めるように頷き答えた。


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