339.責任感の強い人
「大吉さん、そういえば陥没現場の方は……」
署に着くと、先日と同じ取調室に通された。そして椅子に座ったところで、わたしはようやくその質問をする。
何故なら。廃墟街を抜けるとそれなりに人通りがあったし、何より――
あの建物から出た時、大吉さんが「ん」と言ってその手を差し出してきて。自分の意思とは関係なく伸びていった手が“きゅっ”と握られた瞬間から…………嬉しすぎて記憶がなく。
気がついたらもう署に着いていて。受け付けからこの部屋に向かうところだったのだ。
「喜光に任せてきた。瓦礫の下敷きになった者がいなかったとわかったからな」
「そうなんですか⁉︎」
雷喜さんはどうやってか瓦礫の下にはなっていなかった。それどころか結界アーティファクトを盗って逃走している。
だから彼は何らかのアーティファクトを使って脱していたのだろうと思っていたけれど……
「なら……怪我人も出てないんですね」
「そうだ」
それを聞いて、他の人がどうなったのかが気になっていたわたしは、安堵の息を吐いた。
「でも………よく分かりましたね……?」
わたしが現場を離れる時も、落ちた瓦礫はまだ沢山あった。それを全て退けたのだろうかと問うてみる。
「それはだな……藍華が通信を切った直後、例のアーティファクト無効化現象が起きてな」
そういえばその原因を調べに行ったのだった。けど、それとどう関係が……
「そのおかげでわかったんだ」
いまいち状況が理解ができず、わたしの顔にははてなマークが浮かんでいただろう。
「通信が切れてすぐ、藍華の元に向かうと喜光に伝えようとしたんだが。その時、瓦礫の下敷きになったと思われていた宗次の姿が突然俺の目の前に現れて」
姿を消すことのできるアーティファクトがあるんだ……⁉︎
「慌てて逃げようとするから、反射的に殴り飛ばして拘束したんだが」
反射的にって。
状況を理解したいので、言葉にはせず、心の中で突っ込んでしまうわたし。けれどその次の説明には
「その時、そいつが持っていたらしい白い粉の入った小ビンが落ちて」
「白い粉……」
黙っていられなかった。
それってもしかして……
「それを拾った喜光が気づいたんだ。無効化現象の原因がソレだと」
「すみません……。それってもしかして、これくらいの小瓶デスカ?」
言って、右手人差し指と親指でそのサイズを見せると……
「確かにそんなサイズだったが……」
やっぱり!
「ソレ、たぶん……わたしがあの時盗られた資材です…………」
宗次さんが持ってたのか。
「……そんな怪しい力の資材、買ったのか…………?」
ちょっと引き気味に言う大吉さんに、わたしは弁解する。
「見た瞬間、なんだか気になっちゃったんですよ……視る力で見たら物凄い光り具合でしたし……。何かスゴイ物が作れそうかな〜なんて。
それに、そんな現象が起こるだなんて、お店のおばちゃんも知らなかったですし、わたしもわかりませんでしたし……。
喜光さんは良く気づきましたね?」
「ソレが宗次の持つアーティファクトの光を掻き消しているのが見えたらしいぞ」
なるほど納得。
その時、取り調べ室のドアをノックする音が聞こえた。大吉さんが「どうぞ」と答えると、手に書類の束を持つ蓮堂さんと、椅子を持った喜光さんが、神妙な面持ちで顔を覗かせる。
「二人ともお疲れさん」
「お疲れ様です」
普段通りな声のトーンの大吉さんに続いてわたしも同じように声をかけると、二人は苦笑しながら入ってきた。
「そっちこそ、だろ」
「全くだ」
喜光さんはわたしの横に持ってきた椅子を置いて座り、蓮堂さんが大吉さんの隣に座って持ってきた書類を机の上に並べ始める。すると、
「まず初めに、俺から言わせてくれ」
喜光さんが、大吉さんとわたしを交互に見て、机スレスレまで頭を下げた。
「申し訳ない。修復師の者が二人も――――」
「そんな……喜光さんのせいじゃないじゃないですか……!」
悪い事、犯罪を犯す。成人しているならそれは本人の責任であって、周りの誰のせいでもない。
「いや、俺の監督不行届きだ。特に藍華さんには申し訳ない」
喜光さんはわたしの目を見て再びそう言った。
「監督って……お前、アイツらはお前の子供か? 違うだろう」
「子供だとしてもですよ。成人してるんですから本人の責任です」
「それでもな……」
喜光さんはそう言うと黙ってしまった。
責任感の強い人、なんだな……
「ボランティアの者達から聞いた。喜光の対応が遅かったら、本当に瓦礫の下になっていた者がいただろうと……。
お前さんは十分に役目は果たしただろう。
どうしても自責の念に駆られると言うなら、次に何かが起きた時は……良く知る身内さえも疑うっていう事を覚えておけば良い」
「身内さえも、か――」
蓮堂さんの言葉に、どこか遠くを見るような眼差しを机上に向けて、喜光さんは呟くと
「ま、それは警察のやり方だがな」
蓮堂さんは、そう静かに答えた。
その後。調書を取る前に、押収したアーティファクトの項目確認をということで、わたし達は項目の書類に目を通した。
書類には、まるで写真と見間違う程のレベルの絵が描かれていて。その中に、奪われた指輪と例の小瓶もあり、それらは二、三日後に蓮堂さんが届けにきてくれることとなった。
「すみません……この人形の物って、何だったんですか?」
人形の袋のような物を見つけ、気になったたわたしが聞くと
「おそらく幻影を作り出すアーティファクトだ」
答えてくれたのは、少し寂しげな顔をした喜光さんだった。
「瓦礫の下に、複数のアーティファクトの気配があったから、やってきた警察に進言して、回収してもらったんだが……。
その中に奴らのアーティファクトが入っていたんだな……」
「全部で五個、その人形の袋があって。その全てに何かしらアーティファクトが入っていた。おそらく……視える者に瓦礫の下に誰かがいると思わせるためだろう――」
そうか……喜光さんやわたしに疑いを持たせないために……。
喜光さんに続く蓮堂さんの言葉でわたしはハッキリと理解した。彼らは本気で喜光さんにバレないよう動いていたのだと……。
「瓦礫の下になった瞬間を見てからは……奴らのアーティファクトの気配を頼りに場所を確認したからな……。
俺もまんまと引っかかってたよ……」
そう……悲しそうに喜光さんは言った。
遅くなりまして!スミマセン!!
第二部はあと二、三話を予定しております。
最後までお付き合いいただけましたら幸いです(❁´ω`❁)




