338.心に、身体に、刻み込む
「たとえ記憶が消されても……わたしはもう一度――――」
もう一度、必ず大吉さんの事を好きになる。
そう言葉にする事で、心のどこかに、身体に、この想いを刻み込む――!
祈るように、その言葉を口にしようとした瞬間、
ガシャァアアアアン‼︎
ドアの向こうでガラス窓が割れる音がして、東オーナーも雷喜さんもビクリと体を震わせる。
もしかして警察が――
反射的にアーティファクトの感知をすると、胸の氷が一気に溶けだすのを感じた。
東オーナーがわたしから目を離してそちらを見ようとした時、ドアが突然彼の方に吹っ飛んできた。
「ちっ――!」
雷喜さんが動いて飛びくるドアを蹴り飛ばし、さらに身構える。
けれど――侵入してきたその人は雷喜さんを蹴り飛ばし、さらに東オーナーを殴り飛ばして、あっという間に二人を沈黙させた。
「――大吉さん――!」
嬉しすぎて涙が出そう――警察より先に、大吉さんがきてくれた……!
「無事か⁉︎ 藍華!」
大吉さんはすぐに駆け寄ってきて、わたしをぐるぐる巻きにしている縄を解いてくれる。
「なんとか……無事です!」
ネックレスの光も、伸びていた光の糸も、見えるか見えないかというくらいまで収まっていて、わたしはひとまず安堵の息をつく。
「ありがとうございます……」
後ろ手で縛られていた縄も外してもらうと、身体がガチガチに緊張していたことに気がついた。
立ちあがろうと思うも、脱力感がすごくてすぐには無理そう……
「迷惑かけてしまって……ごめんなさい」
椅子に座ったまま俯いてそう呟くと、大吉さんが横に立ち、わたしの頭をポンポンと優しく撫でてくれる。
「迷惑なんかじゃない……。
ここに来るまでに、タローとマヤちゃんに会った。あの子らは無事だ」
そう言うと、わたしの頭をフワリと包むように抱きよせた。
「よく……やったな」
冷たい氷はどこへやら。胸には暖かい何かが広がって身体全体に染み渡るようで……
「……はい……」
もしかしたら消されていたかもしれないこの気持ち……消されなくてよかった――――
わたしは、頭を優しく包んでくれている大吉さんの手に自分の右手を添えて、感謝の気持ちを言葉にする。
「助けに来てくれて……ありがとうございます――!」
そのまま、三回くらい呼吸をした頃だろうか。わたしが添えていた手を離すと、大吉さんは言った。
「もっとゆっくり抱きしめたいところなんだが……」
身体中に広がった温かさが、瞬時に沸騰しそうになった。
「奴らのアーティファクトを取り上げてくるな」
そう言うと、大吉さんは気を失っている二人の元へ行った。
そしてアーティファクトを取り上げ、力を遮断する籠目模様入りの袋にポイポイ入れていく。
「コレは藍華のだな、ホラ」
雷喜さんの懐を弄っていた大吉さんが、そう言ってわたしのアーティファクトセットのついたウォレットチェーンを差し出した。
立てるくらいの力が戻ってきていたわたしは、それを受け取り、首につけられていたネックレスを外して大吉さんに渡す。
「これは……?」
「そのブローチとセットで使う物で、ネックレス装着者の記憶を消す能力があるらしいです」
「なんだって……⁉︎」
驚愕の表情になり、そのネックレスをまじまじと見つめる大吉さん。
「外国からの輸入品だそうですがやっぱり大吉さんも知らない物ですか……?」
「そんな物は見た事も聞いた事もない……」
そうこうしているうちに、警官たちが駆けつけてきて。気を失ったままの二人はすぐに連行されていった。
取り上げておいたアーティファクトを警官に渡すと、記憶の新しいうちに調書をということで、わたしは大吉さんと共に警察署へ向かうことに。




