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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第二部 一章 寺院の修復とその裏で動く影
338/343

337. 人の魅力は、能力とイコールじゃない

「どうしてそう思うの……?」

「僕なら、貴女の事が理解できるからです」


 キッパリと言い切るその声からは、間違いないという自信すら感じる。

 彼と押し問答がしたいわけではないので「理解できるから何?」という言葉を飲み込んで、わたしは他に逃げる手立てがないかに思考を巡らせる。


「藍華さん、未使用アーティファクトの光が視えていますよね? それもかなりの精度で」

「……さぁ……わたしにはなんとも……」


 みーばぁや双葉ーちゃんには絶対敵わないと思うし、誰かと比べようなんて思ったこともないからわからない。

 曖昧に返事をしつつ、わたしはあることに気づいた。わたしの取り上げられたアーティファクト、彼の持つ感知阻害袋に入れられてるのでは、と。


 彼の腰にあるソレは、中身が結界アーティファクトだけにしては膨らみが大きい気がする――


「僕の視る能力は生まれつきで、年々その力も成長しているようなんですが、感知できるのは二十メートル前後止まりなんですよ」


 彼の話を聞きながら、感知阻害袋の中にあるだろうわたしのアーティファクトが反応しないかを試みる。


「ですが、第六感っていうんでしょうかね。最近ではアーティファクトの能力や、誰がどういうアーティファクトと相性が良いのかとかまでわかるようになってきたんです。あと――」


 雷喜さんはそう言いながら、その袋を腰から外し、手に取って見せてきた。まさか――


「誰がどのアーティファクトと使おうとしてるのか、なんかも」


 冷や汗が背中を伝う――


「こういう近距離限定で、なんですが。

 おそらく僕が視ているのは“力そのもの”なんでしょうね。アーティファクトの持つ力、それを発動するための力、といった。

 そういった力の流れが、微かに光って見えるんです」


 それは確かにすごいけれど……


「そして、今の藍華さんにとっては残念なことだと思いますが……この袋、中のアーティファクトを無効化もしてくれるものなので、何かしようとしても無駄ですよ」


 わたしがやろうとしていることもバレバレ、と……。


「まぁ、そんな訳で。同じモノが視えるという共通点と、貴女のしようとしていることが手に取るように分かるという事は、僕たちの間に特別な絆を生むと思いませんか?」


 あまりにも乱暴で、幼い物の考え方……やっぱりめまいがしてくる――


 わたしは多分、酷くしかめた顔をしていたと思う。けれどそれが見えていないのか、気にもしていないのか、彼は無邪気な笑顔のまま続けた。


「貴女をはじめて見た瞬間、すぐに他の人と違うってわかったんですよね……。

 店にあったアーティファクトは、全て貴女に向かって光りを送るように輝いていたし」


 そうなんだ⁉︎


「常に光に包まれてる貴女の姿は、まるで神か天使のようで……」


 それは幻想だ。あえて言うならそれは……わたしが別の世界線の過去から飛んできたから。わたし自身ははそんな大層な者じゃない――


「貴女はあんな店でアーティファクトマスターの仕事をするより、もっとすごい事ができる人。

 だから――キョウトに拠点を移すべきなんです」


 その時、急激にオーナーの持つアーティファクトが輝きを増してきた――――


 目に入ってきた光が青色だからか、胸に冷たい何かを感じる。


「先程オーナーは否定するようなことを言ってましたが、アーティファクトに個々の意思のようなものがある事も、僕は知っています。

 だから僕なら、的確に貴女のサポートができる」


 早く――何とかしないと――!


「大吉さん……確かに彼は腕の良いマスターで、オールマイティに発掘までこなす凄い人ですが……店での様子を見ていればわかります。あの人は何も視えていないじゃないですか。貴女の凄さにも気づいていない、いや……気づくことすらできない。そんな人のどこが良いんです?」

「そんなの! 人の魅力は、能力とイコールじゃないからよ……!」


 能力が高かったから惹かれたのではない。気がついたら惹かれていた……ただそれだけ。


「それでも、あんな人の所にいるより、僕と一緒に来た方が、貴女のためにもなります。

 アーティファクト技術の未来のためにも、貴女はキョウトにくるべきなんですよ」


 何を言っても無駄そうな彼に対して、焦燥感なのか脱力感なのかはたまた両方なのか……そういった物を感じる。


「雷喜さん、用意ができました。その女から離れてください」


 ――!――


 オーナーの持つアーティファクトはすでに眩い光を有していた。呼応するように、わたしの首にかけられたネックレスも輝きを増している。


 己の考えの浅さと無力さから招いてしまったこの事態に……胸に大きな氷の塊を抱えているような感覚がしてくる――


「例え記憶が消されても……わたしはもう一度――――」


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