335.以前とは違う光り具合
気づくと、わたしは椅子に座らされていた。
背後から、誰かが何かをしているのを感じて薄目を開くと、長い縄でグルグル巻きにされている自分の体が目に入る。
そして、さらりと垂れてきている自分の髪が目に入り、髪ゴムに擬態してあったアーティファクトが取り上げられている事に気づいた。
……となると……
そのまま自分の身につけていたアーティファクトを感知してみると、全て取り上げられ、少なくとも近くに反応がないことがわかる。
ついでに後ろで何かしているのが雷喜さんだということも――。
横目で確認してみると、左の壁際に並べられた椅子と、不自然に置かれた長テーブルが目に入る。どうやら場所は移動していないみたいね……。
その時、ぎゅうっと縛り上げられ、腹部に痛みを感じたわたしは呻いてしまう。
「……ぅ……」
そうか――無効化アーティファクトを使われたんだ……そりゃ身代わり護りも新しい護身用アーティファクトも発動しないわ……
「おや……もう気づきましたか、手を抜きましたね雷喜さん」
東オーナーの声が聞こえる。
顔を上げると……彼はすぐ右隣で長テーブルにもたれるように座り、わたしから取り上げたポーチの中を確認しているところだった。
「本気でイれたら何も聞けなくなりますからね」
「何か聞く必要が?」
縄を縛り終えたらしい雷喜さんは立ちあがり、オーナーが持つわたしのポーチを指して言った。
「そのポーチに入ってる例のカード。以前と光り具合が違います。確認した方が良いですよ」
そんな事までわかるのか――
大吉さんを見ているからわかるけれど、訓練したからといって、そう簡単に視えるようになるわけではない。
天性のものにしろ、努力の賜物にしろ……この人、本当に凄い力を持っているのに……
オーナーがポーチをまさぐりカードの入ったケースを手に取った。
う……マズイ。この状況、ただ捕まるよりマズイ……だってあのカードはもう…………
ケースを開きカードを取り出すと、オーナーは鑑定アーティファクトらしき物でソレを確認しはじめる。
「能力名、導きの光――⁉︎」
その顔はすぐに驚愕の表情へと変化し、震える声でつぶやいた。
「これはどういうことですか――? 何故このカードは鍵の能力を失ってただの開運系アイテムに……」
そう言って俯き、黙ってしまったオーナー。
その表情はあまりよくうかがえなかったけれど、喜んでいないことは確かだろう……
カードの新しい能力については、陥没現場までの道中大吉さんと話して、子供達が持つならちょうど良いと思っていたのだけれど。
まさか裏取引の報酬だったとは………。
いやまぁ、結果的に何かよろしくない事を防いだってことで、良かったのだと思うけれど。
「……コインが外れちゃってたから、接着し直したのよ。その時……そのアーティファクトが望んだから外側をコーティングして補強したわ」
オーナーから滲み出てくる悲壮感が、あまりにも大きくて。説明したところでどうにもならないだろうけれど、と、ズキズキと痛むお腹に力を入れ、わたしは声を絞り出した。
「…………くっくっくっく――――アーティファクトが望んだ……? そんな話を信じろと――⁉︎ 貴方にはアーティファクトの声でも聞こえるんですか⁉︎」
怒気を含む声がして、その視線は一瞬わたしに向けられた。けれど――――
「コレは海外のあるルートでの取り引きに必要な……重要なデータを取り出すための鍵だったのですが……」
彼が怒りの感情を急速に抑え込んでいくのがわかった。するとカードの光の色が薄い青色へと変化していき、鑑定アーティファクトで再びカードを確認しながら言った。
「こうなってしまっては……元に戻すくらいならもう一度入手する方が早そうですね…………」
ついさっきまで黄色い光だったのに……これはいったいどうして……?
東オーナーは、カードをケースに入れポーチに戻すと、冷たい視線を雷喜さんにおくる。
「雷喜さん。私への報酬をダメにしてくれた責任、半分は取ってもらいますよ」
「……さっきも言ったが、処分とか殺しはやらないですよ」
「花街で護衛を手ひどく怪我させているのに?」
オーナーは、フンと鼻で笑いながらポーチを手近にあったテーブルに置き、雷喜さんを見た。
「アレをやったのは相方です」
そういえば、花街の強盗は二人組だと――いったい誰が……まさか康介さん……?
いや、違う。コインのことを知っているのは……
「俺より細身で一見大人しげなのに」
やっぱり――――




